こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】オルガノイドを利用したレーバー先天性黒内症遺伝子治療シミュレーション

興味を持った文献を読んで見ます。今回も前置き部分が長くなってしまいました。

 

Kruczek K, et al.

Gene therapy of dominant CRX-Leber congenital amaurosis using patient stem cell-derived retinal organoids.

Stem Cell Reports. 2021 Jan 12:S2213-6711(20)30513-0.

 

  • photoreceptor transcription factor gene cone-rod homeobox (CRX)遺伝子変異によってレーバー先天性黒内症は発生する。
  • 乳児期に失明に至ってしまう疾患。常染色体劣性遺伝。
  • 現在有効な治療はない。
  • CRX -I138fs48変異を有する患者から誘導された多能性幹細胞(iPSC)を利用して視覚オプシンの発現が減少した網膜オルガノイドモデルを作成。
    →ウイルスベクターを用い遺伝子改変を行うことによって、この治療を試みる。

オルガノイドとは

オルガノイドとは?

“ミニ臓器”と呼ばれたオルガノイドは、生体内の組織または臓器に極めて似ている3D(3次元)培養システムです。この3D培養システムは、分化した組織の複雑な空間的パターンを再現でき、細胞と細胞、細胞とマトリックスとの相互作用を示すことも可能です。理想的には、生体内の分化した組織と同様の生理学的応答を有します。2D(2次元)細胞培養モデルと異なり、オルガノイドは物理的、分子的および生理学的に組織と極めて類似しています。

出典:https://www.veritastk.co.jp/sciencelibrary/learning/miniorgan-organoid.html

 

 今回の場合は、レーバー先天性黒内障の患者さんからとった細胞を元にiPS細胞から、患者さんの網膜を再現したミニ臓器を作成し、それを治療するというもの。

 

オルガノイドを利用したほかの実験・研究↓

teicoplanin.hatenablog.com

 

ウイルスベクターを用いた遺伝子治療

ざっくりと説明します。

 

例えばある遺伝子aが欠損していることによって疾患Aになってしまうとする。遺伝子aを復活させることができれば、疾患Aが治療できるわけだが、これをウイルスを用いて行う方法。

ウイルスの遺伝子の中に遺伝子aを入れ込み、宿主に感染させる。そうすると、ウイルス遺伝子が宿主遺伝子に取り込まれ、疾患Aを治療することができるというもの。

ウイルスはそれ自体では病原性のないものを使用。レンチウイルス、アデノウイルスなどが用いられることが多く、今回の論文でアデノウイルスが使用されている。

バーク先生とウィルスベクター 

出典:

http://www.scj.go.jp/omoshiro/nobel/watson/watson4.html


  • 作成した患者モデルオルガノイドにアデノウイルスベクターを感染させ、正常CRX遺伝子発現を増強させる。
    →変異アイソフォームと競合し、表現型が改善するのではないか?(疾患が改善するのではないか?)
  • ウイルスベクター感染後にCRXが発現が高くなることを確認。(CRX mRNAとたんぱく質が増加)
  • 治療により、ロドプシン発現、L/Mオプシン発現が部分的に回復。
  • この効果が少なくとも6ヶ月持続。
  • アポトーシスの増加はなし。

ロドプシン (英語: Rhodopsin)、は脊椎動物の光受容器細胞に存在する色素である。視紅(しこう)とも呼ばれる。

(中略)

ロドプシンは2つの部分から成っている。オプシンと呼ばれるタンパク質部分と、可逆的に共有結合をつくる補因子レチナール(レチンアルデヒド)である。オプシンは7本のらせんが束になって膜を貫通し、中心のポケット内にクロモフォア(色中心)のレチナールが結合する。レチナールは網膜でビタミンAから作られる。そのため、ビタミンAが欠乏すると暗部の視力低下に繋がる(夜盲症)。

出典:Wikipedia