こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

COVID-19ワクチン~ナノ粒子を用いたmRNAワクチン~

COVID-19ワクチンに関する文献がいくつか出てきました。

今回はNEJMの記事を紹介してみます。

 

ちなみワクチン接種を受けてみた感想記事はこちら↓

teicoplanin.hatenablog.com

 

NEJMにて紹介されている以下の論文ではナノ粒子(nanoparticle)を利用したものです。

 

ナノ粒子を利用した文献は過去にも紹介したことがあります。今回はナノ粒子を利用した治療をいくつか紹介しつつCOVID-19ワクチンに関しても軽く紹介していきます。

 

 

Nanoparticleとは

物質を直径1-100ナノメートル(nm)の粒子にしたもの。化学・物理学・地質学・生物学など多くの分野に置ける研究対象。

出典:Wikipedia

 

近年、薬剤を体内に運ぶ方法としてナノ粒子を用いる方法が研究されている。

 

ナノ粒子を用いた治療

過去にブログで紹介した文献↓

teicoplanin.hatenablog.com

上記文献では、RNA干渉を起こさせるためのsiRNAを体内に運ぶための道具としてナノ粒子を用いている。

 

以下過去のブログの引用↓

RNA干渉とは?

2本鎖RNAと相補的な配列を持つmRNAが分解される現象。これによって、特定の遺伝子発現をノックアウトすることができ、疾患の治療への応用が期待されている。 

たとえば、ある疾患Aの発症を防ぎたいとき、その原因遺伝子がaだとしたら(遺伝子異常aがあることによって疾患Aが発症してしまう)、siRNAを用いて遺伝子aからmRNA→たんぱく質合成と進み以上なタンパク質が作られ疾患Aが発症してしまうのを防ぐことができる。

 ~中略~

上記記事でも触れているが、siRNAは細胞膜を通れないため、標的組織・臓器へどのように運搬するかがRNA干渉を利用した治療の課題の1つ。

→ここでNanoparticle!Nanoparticleを用いた運搬は従来の方法よりもサイレンシング効率が高く、注目されている。

Nanoparticleを用いると…

  1. 血液中でsiRNAが分解するのを防ぐことができる。
  2. 腎臓によってsiRNAが排泄されてしまうことを防ぐことができ。
  3. 表面因子を調整することで標的臓器への伝達が可能となる。

今回筆者らはHSCニッチにアプローチする方法を報告した。

 

その他のナノ粒子を用いた治療の例

1.HIV治療薬の運搬

HIVに感染していても、HAART治療によってADIS発症は防げるようになってきているが、抗ウイルス薬は血液能関門を通ることができず、脳をウイルスから守る効果が弱まってしまうという問題点があった。

→ナノ粒子を用い、抗ウイルス薬を脳内へ運搬する方法が提案されている。

Aggarwal N, Sachin, Nabi B, Aggarwal S, Baboota S, Ali J. Nano-based drug delivery system: a smart alternative towards eradication of viral sanctuaries in management of NeuroAIDS. Drug Deliv Transl Res. 2021 Jan 23.

 

2.抗がん剤の運搬

・抗がん作用を付加したシルバーナノ粒子による乳がん治療が提案されている。具体的にはタモキシフェンをナノ粒子に付加し、がん細胞退縮効果があるかを調べる研究が進んでいる。

Ulagesan S, Nam TJ, Choi YH. Cytotoxicity against human breast carcinoma cells of silver nanoparticles biosynthesized using Capsosiphon fulvescens extract. Bioprocess Biosyst Eng. 2021 Jan 24.

 

・ナノ粒子を用いたグリオブラストーマの治療に関する研究が進んでいる。

Janjua TI, Rewatkar P, Ahmed-Cox A, Saeed I, Mansfeld FM, Kulshreshtha R, Kumeria T, Ziegler DS, Kavallaris M, Mazzieri R, Popat A. Frontiers in the treatment of glioblastoma: Past, present and emerging. Adv Drug Deliv Rev. 2021 Jan 21:S0169-409X(21)00022-3.

 

特に悪性腫瘍のナノ粒子治療はナノ粒子研究の中でもさかんに行われているが、腫瘍への到達効率が低いこと(0.7%)が課題である。

Stefan Wilhelm et al. Analysis of nanoparticle delivery to tumours. Nature Reviews Materials volume 1, Article number: 16014 (2016).

 

ナノ粒子を利用したCOVID-19ワクチン

ワクチンはいくつかの製薬会社が作成を試みていますが、ファイザー社のワクチンがナノ粒子を利用しています。

lipid nanoparticle(脂質ナノ粒子)内にmRNAをいれ体内へ(筋肉注射)。細胞内に入り、mRNAを元にウイルスたんぱく質ができ、これに対する抗体が体内でできるというしくみ。mRNAであるため核には取り込まれず、ある程度時間が経つとmRNAは消褪するとのこと。

 

これまでワクチンといえば、生ワクチンあるいは不活化ワクチンでしたが、この2つはどちらも迅速に大量生産するのが難しい。そこで登場したのが今回のmRNAなわけです。

 

臨床試験詳細はこちら↓

Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2034577?query=recirc_mostViewed_railB_article

 

 

Quick Viewもあります。

 

これによると、ワクチンBNT162b2投与郡とPlacebo郡をobserver-blindedで比較。37,706人を2群に分けて比較(16歳以上)。投与後21日間のCOVID-19感染をplaceboと比較し95%減少させた。また倦怠感、頭痛などといった有害事象が40-50%程度におきたが、十度の有害事象はplaceboと比較し、差はなかったとのこと。

 

有効率95%はすごいですね!まだ新しいワクチンで有害事象が気になるところではありますが、この論文を見ると興味がわいてきます。