本日も文献紹介です。
Lapillonne H, et al.
Red blood cell generation from human induced pluripotent stem cells: perspectives for transfusion medicine.
Haematologica. 2010 Oct;95(10):1651-9.
Introduction~iPS細胞から赤血球を作れないか?~
- 現在、赤血球輸血は献血に頼っている。
- 輸血の問題点
①供給不足:全世界で毎年8000万単位の血液がドナーから集められている。
②感染症リスク(発展途上国)
③輸血時の免疫反応(先進国)
→iPS細胞から赤血球を作ることができればこれらは全て解決できる! - ES細胞で既に試みられ、一部成果を出したが、広く輸血可能なO型Rh-血球を作ることができず…ES細胞からの赤血球分化は限界ありか。
- iPS細胞ならできるかもしれない。これまで赤血球への分化は報告なし。本論文で初めて報告。
Methods
2つのステップで構成。
①iPS細胞から胚様体を形成。
②サイトカイン存在下で培養し赤血球まで分化・成熟。
Figure 1.
※胚様体とは…
ES細胞やiPS細胞からいろいろな細胞に分化する途中の段階。ES細胞やiPS細胞を一定期間浮遊培養させることによって生じる細胞の塊のこと。胚体外胚葉と中・内胚葉に分化する二重構造。例えば心筋細胞に分化させたい場合、心筋細胞は中胚葉から分化するため、ES細胞やiPS細胞から中胚葉成分の多い胚様体に分化させる、といった方法を取る。
胚様体 Wikipediaより引用
Results
- iPS細胞とES細胞両方使用(さらにiPS細胞に関しては胎児由来と成人由来どちらも使用)。早期(第1段階目)から赤血球生成経路を刺激。
- 培養2-20日にかけて、未分化細胞マーカーが減少し、赤血球マーカーが上昇していくことをフローサイトメトリー(FACS)で確認。
- 培養20日目の胚様体(D20-hEB)は赤血球分化の可能性を有していると考え、これを次の実験に使用。
- 各種のD20-hEBで第2段階へ。各種サイトカイン存在下に培養。
- 8日までで99%が赤芽球へ。25日目には50-90%程度の有核赤血球へ。
- 1x10^6個のiPS細胞からその1.5倍の数の胚様体、440倍の成熟赤血球
1x10^6個のES細胞からその2.5倍の数の胚様体、3500倍の成熟赤血球
を得た。 - 出来上がった赤血球の大きさと表現型を通常の対照赤血球と比較。
→表眼型・大きさ共に通常の成熟赤血球とほぼ同等。 - ヘモグロビン鎖構成はiPS由来、ES由来のもので同等。
- 赤血球の機能をFlashphotolysis法にて分析。
※Flashphotolysis法:レーザー光を当て、吸収スペクトラムの違いを見て、ヘモグロビンの性質を測定する方法。これによってヘモグロビンのダイナミックな動態を捉えることができる。
→この結果、培養して作られた赤血球は生理的条件下だけなく、アロステリックな条件下でも機能することが示唆された。
Discussion
- 2段階ステップによって、生体内での赤血球生成(妊娠5週より大動脈・性腺・中腎領域=AGM領域で赤血球造血が起こり胎児肝、骨髄へと造血の中心が移行していく)過程を再現できる。
- hiPS細胞から成熟赤血球を作成する方法を今回初めて報告。
- ES細胞でもiPS細胞でも同様の方法でほぼ同等の効果→ES細胞で確立された方法はiPS細胞でも転用できるかもしれない。
- ES細胞やiPS細胞から赤血球の生成が可能であれば、輸血に大いに役立つ。
- 供給量の問題だけでなく免疫反応が起きないという点でも重要である。
これは鎌状赤血球症など頻繁に輸血が必要な患者にとって有効。 - 稀な血液型の患者には特に役立つ。
- 今後の課題は…これが本当に動物・人間にとって安全かどうか?この点はさらなる検証が必要。