こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】ワルファリンは造血と骨髄ニッチを損なう?~その1~

今回も文献紹介です。約1年前くらいに出た論文です。 

 

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<基礎知識> 参考:Wikipedia

★インテグリンとは?

細胞表面にあるたんぱく質であり、細胞接着分子である。α鎖とβ鎖の2つのサブユニットから成っている。αとβには様々な種類があり、この2つ組み合わせによって様々なインテグリンが存在する。αとβの種類によってインテグリンα1β1などと表記される。ヒトには24種類のインテグリンがある。

 

★インテグリンαVβ3(ビトロネクチンレセプター)

インテグリンの中でもRGD配列認識インテグリンに分類される(結合するリガンドによって、このほかにもラミニン結合インテグリン、コラーゲン結合インテグリンなどが存在している)。血管内皮細胞、破骨細胞、腫瘍細胞に多く発現している。血管新生などに関与している可能性があると考えられている。

細胞接着因子であるインテグリン αvβ3 は、がんの増殖、血管新生や浸潤に関与すると考えられており、そのリガンドである RGD 配列を持つペプチドは、がんの治療薬や診断薬として有効であると期待されている。

例えば、RGD 配列を持つシレンジタイドは、インテグリン分子に対する分子標的薬であり、悪性グリオーマに対して有効に働くことが大
きく期待されている。

出典:「がん診断・治療薬の開発を目的としたインテグリン αvβ3に対する
新規リガンドの合成 」

http://www.med.ufukui.ac.jp/LIFE/seimei/research/H25_seikahoukokusyo/makino.pdf

※インテグリンαVβ3の遺伝子…ITGAVとITGB3

 

ペリオスチン(Postn)

インテグリン αvとの相互作用を通じてぺリオスチンがHSC増殖調節を担っている。

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Verma D, Kumar R, Pereira RS, et al.

Vitamin K antagonism impairs the bone marrow microenvironment and hematopoiesis. Blood.

2019;134(3):227-238.

 

★ワルファリンについての概説★

抗凝固剤。ビタミンK還元酵素であるビタミンKエポキシド還元酵素の阻害剤。第II・VII・IX・X因子、プロテインC・Sの活性を低下させる。

・ワルファリンは、血栓治療ののため60年におよび、血栓イベントの予防・治療のために世界人口の1%で利用されてきた。

・骨芽細胞分化と機能は骨密度低下や骨折リスク増加につながる。

 (逆にビタミンK投与は骨合成を促進する)

→→→ワルファリンは骨髄微小環境を阻害することで造血に影響を与えるのではないかと考えられている。

 

Result

・マウスにワルファリン(Wf)を投与すると、

 ・白血球・単球・リンパ球の数が減少。経口・皮下投与どちらも同じ。

 ・投与3日後から見られ始め、2ヵ月は持続せず。

 ・HSC形成能は有意に低下。機能的HSCは7.6倍減少。

 ・5-FU投与マウスにおける白血球低下が増強され、生存期間も短縮。

 ・Wf投与後にビタミンKを投与すると5-FU投与後の白血球数減少は緩和される。

Wf投与で造血ストレスに対処するためのHSPC(造血前駆細胞)機能が低下する。

 Wfは造血とHSC機能を損なう

・Wf投与によって海綿骨量が有意に減少。石灰化も減少。

→Wfによって骨芽細胞機能が損なわれ、骨吸収が増加する。

・Wfは骨髄微小環境のマクロファージ支持機能を損なう。

 ・Wfとマクロファージを共培養すると死細胞が増加する。

 ※マクロファージはHSCの休眠に関与している。

 ・Wf処理したマクロファージとともに骨髄細胞を移植すると有意にキメリズム

  が低下する。

Wfが骨髄微小環境のマクロファージ支持機能を損ないHSPC機能低下に

 つながっている。

・Wfはマクロファージによって分泌されるペリオスチンを脱酸素化させることによって造血障害を起こす。(マクロファージがビタミンK依存性ぺリオスチンを分泌している。)

・ぺリオスチンは造血に関与しており、ぺリオスチン欠損マウスはでは血球減少が見られる。

・Wf+ぺリオスチンで処理すると5-FU処理後の血球減少はWfのみと比べて緩和される。

・ぺリオスチンノックアウトマウスをWf処理しても移植後生着率や5-FU投与後血球地底化には影響しない。

ぺリオスチンのγカルボキシル化がHSC障害やWf処理後の骨髄細胞減少に関与している。

Wfはペリオスチン/インテグリンβ3シグナル伝達軸を介して造血を損なう。

 ・Wfによってインテグリンβ3 + CD11b +骨髄細胞の割合が増加。

 ・Wf存在下でLSK細胞とぺリオスチンを共培養するとマクロファージへの

  接着が促進。

 ・Wfが骨髄細胞対LKS細胞数に及ぼす影響の違いは、インテグリンβ3の発現の違い?

・Wf処理したドナー細胞も移植されしばらくすると(2か月)その影響はなくなる。

→Freshな微小環境にさらされ、Wfの影響はなくなるのではないか?

・ビタミンK拮抗薬はヒト白血球の減少とヒトHSCの生着に関連。

    ワルファリン処理したヒトCD34−細胞を移植すると生着率が低い。

    しかし同じ抗凝固薬であるアピキサバンで処理した細胞を移植してもこの効果はなし。

ビタミンK拮抗薬使用者はMDS患者で有意に多い。(14.7% vs 5.8%)

 ビタミンK拮抗薬使用オッズがMDS患者で増加している。

 

後編記事↓

teicoplanin.hatenablog.com