本日も文献紹介です。抄読会のメモ的な感じです。
- Senolytic CAR T cells reverse senescence-associated pathologies
Nature 583, 127–132(2020)
背景~論文を読むにあたっての基礎知識~
・細胞分裂の際に染色体分離がうまくいかないとがん化が起こるのではないか?
→これを調べるために、Jan M van DeursenらはBubR1 KOマウスを作製し調査。
→この過程でBub1bマウス低発現マウスでは老化が早く起こることが分かった。
→Bub1bはp16を介して老化を防いでいるのではないか?
→p16発現細胞を除去する(アポトーシスさせる)マウスモデルを作ると脊柱前湾や白内障が起きにくくなる!=老化細胞を一生の間除去し続けると老化が起きにくくなる!
→このシステムをBL6マウスに応用すると寿命が伸びる。(老化促進マウスでなくとも寿命延長効果が望める)
参考論文:
Baker DJ, et al. Opposing roles for p16Ink4a and p19Arf in senescence and ageing caused by BubR1 insufficiency. Nat Cell Biol. 2008 Jul;10(7):825-36.
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"To stay young kill zombie cells"という概念が生まれる。
・(これまではマウスの話)ヒトで実現するには…Dasatinib, Quercetin
→マウスではこれらを投与することで寿命が延長
→老化細胞を除去するものを外部から投与することでヒトでも老化を防げるのでは?
…しかし健康食品であるQuercetinはともかく抗がん剤として利用されるDasatinibを投与し続けるのはどうなのか…
→ほかの方法で老化細胞を除去できないか→今回はCAR-Tを利用!
・CAR-T療法: 第2世代で初めて成果をだし臨床応用(キムリア)現在は第4世代まで出ている。
本文
・CAR-Tによる攻撃の指標となる抗原は何にする?
→膜たんぱく質でありかつSenescent細胞にのみ発現しているものである必要がある!
→RNA seqを用いスクリーニングを行いPlaurが選ばれた。
気管支上皮やMonocyteでは多少発現があるが正常組織ではあまり発現していない。
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★Plaurって何?
・プラスミノーゲンアクティベーターレセプターをcodeしている。
・tPA(フィブリン親和性が高い)の親戚uPAのレセプター。
・uPAがレセプターに結合し活性化することによってECM活性化などにつながる。
・uPA過剰発現させるとがんの転移などにつながる。
・参考 suPAR
・uPARをKOするとBM細胞が減少したり移植がうまくいかなかったりする。
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・老化促進マウスモデルではuPAR上昇、またsuPARも上昇。
・老化促進マウスモデルでは組織学的に見てもuPAR多数。
・ヒト病理検体では?→Liver fibrosis細胞や膵腫瘍細胞ではuPAR多数
・uPARはターゲットとしてちょうどいい!
→これに対するCARを設計
→Lysisが起こることを実験的に確認(マウスにCAR-Tを入れるとvivoできちんと機能している)
・先行論文
CDC7阻害薬→p53変異+肝臓がん特異的に老化誘導→mTORでこれを除去
参考論文:
Wang C, et al. Inducing and exploiting vulnerabilities for the treatment of liver cancer. Nature. 2019 Oct;574(7777):268-272.
→これをマウスで実践してみる。
・肺癌細胞にCdk,MEK投与→老化誘発→CAR-T投与→老化細胞除去される(b-gal染まらなくなる)
・肝臓線維化→CAR-T投与→老化細胞除去される→suPAR・AST・ALPも低下
mycで見るとCAR-Tが肝臓に集積していることが分かる
・CAR-Tの副作用であるサイトカインリリース症候群は起こってしまっていないか?
→これは一時的。低体温・体重減少が起こっているが
・NASH=非アルコール性脂肪肝(一部は肝硬変や肝がんに)→NASHに対しても効果的
まとめ
★通常、Senescent cellはSASPを放出するため免疫細胞によって倒される。
→しかしそれが多すぎると対応できず、がんや線維化を招く。
→ここで老化細胞をCAR-Tによって壊すことを今回試み、ある程度の成果を確認。
★CAR-Tで老化細胞が除去できた。
★がん治療以外にCAR-Tが使えた。