抄読会で扱った論文のメモです。
Yousefzadeh MJ, et al.
An aged immune system drives senescence and ageing of solid organs.
Nature. 2021 Jun;594(7861):100-105.
生命科学で言うところの「老化」は一般的に言われている老化とは少し異なっており、しばしばSenescence(細胞老化)という言葉が使われている。
加齢: aging
時間経過のこと。ヒトでは暦年齢、マウスなどの動物では週齢や日齢になる。
細胞老化: senescence ※こちらの意味でagingという言葉が使われることもある
細胞増殖が不可逆的に停止した状態。年齢や週齢ではなく、p16, p21, p53(老化細胞のマーカー)などの発現量で決定される。同じ年齢でも臓器の機能や生理機能が人によって異なるように、同じだけ時間が経過しても同じように細胞増殖停止が起こるわけではない。増殖が停止したからといってアポトーシスするわけではないので、いらない細胞がどんそん体に蓄積していってしまう。これが臓器機能・生理機能の低下、すなわち老化につながっているのではないかと考えられている。
紫外線、ストレス、慢性炎症、放射線
→DNA損傷→senescence(細胞増殖停止)
→老化細胞蓄積→生理機能低下
という感じ
老化細胞マーカーであるp16を発現している細胞をアポトーシスさせると、老化関連疾患が抑制されるとの報告あり。
Baker DJ, Wijshake T, Tchkonia T, LeBrasseur NK, Childs BG, van de Sluis B, Kirkland JL, van Deursen JM. Clearance of p16Ink4a-positive senescent cells delays ageing-associated disorders. Nature. 2011 Nov 2;479(7372):232-6.
他にも老化細胞のアポトーシスを標的としたsenolytic drugはいくつか報告あり。
上記文献それぞれを取り扱ったページは以下の通り。
Senolytic drug~BETファミリータンパク質阻害剤 - こりんの基礎医学研究日記
Senolytic drug~ペプチドワクチンによる老化細胞除去 - こりんの基礎医学研究日記
Senolytic drug~GLS1阻害剤による老化細胞除去 - こりんの基礎医学研究日記
で、今回の文献の内容です。
- 筆者らは免疫の老化に着目。加齢に伴い…
1.正常な免疫応答が低下
2.慢性炎症や自己免疫応答の亢進
がみられる。→これに最も関与しているのはT細胞。
胸腺は1歳から退縮し始め、40代ではT細胞数は新生児の1/3になってしまうなどT細胞は加齢の影響を最も受けやすいとされている。
→免疫の老化が全身の老化に関与しているのでは? - リンパ系臓器でのみErcc1という遺伝子の発現を抑制
→Ercc1抑制によりDNA損傷を修復できなくなる。
→つまりリンパ系器官のみ老化するようなマウスを作成した。 - 進行性の白血球減少がみられ、中でもB細胞ではなくT細胞が減少する。
- T細胞老化マーカーであるPD1陽性細胞が増加。
- また自然免疫・獲得免疫の低下もみられれた。
→免疫細胞の老化が促進されいていることが分かった。 - リンパ系器官だけではなく、Ercc1が抑制されていないはずの非リンパ系器官の老化もみられた。(腎臓、肝臓、すい臓など各種臓器の採血値が上昇→様々な臓器の障害がErcc1ノックアウトマウスで多いという結果に)
さらにはリンパ系器官のみの老化モデルのはずなのに、コントロールと比して寿命も短縮。 - また、オスの方が老化促進が早く、免疫老化感受性がオスの方が高いことが示唆された。
【結論】
免疫細胞はDNA損傷に脆弱であり、DNA損傷蓄積が老化につながる。
→これが全身の老化にもつながる。
→これを標的とした薬を作れば、加齢による慢性疾患発症を抑え、元気な高齢者を増やせるのではないか?