こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】Tリンパ球の適応と免疫における恒常性~その4~

前回の文献紹介記事の続きです。

なかなかボリュームが多いので、長くなりそうです。。。

 

前回の記事はこちら↓

【文献紹介】Tリンパ球の適応と免疫における恒常性~その1~ - こりんの基礎医学研究日記

【文献紹介】Tリンパ球の適応と免疫における恒常性~その2~ - こりんの基礎医学研究日記

【文献紹介】Tリンパ球の適応と免疫における恒常性~その3~ - こりんの基礎医学研究日記

T Cell Homeostasis in Tolerance and Immunity
Annette M Marleau, Nora Sarvetnick

 

LYMPHOPENIA‐INDUCED HOMEOSTATIC EXPANSION PRECIPITATES AUTOIMMUNITY

リンパ球減少によって誘発される代償的増殖は自己免疫を活性化する

・自己免疫には制御性T細胞(レギュラトリーT細胞)の関与が重要。

・生後3日目のマウスの胸腺を摘出すると…臓器特異的自己免疫が誘発される。
→これは制御性T細胞(CD4 + CD25 +)によるところが大きい。(CD4 + CD25 + T細胞数が回復すると自己免疫関連の症状が改善する)

・胸腺からT細胞産生が減少しても末梢T細胞の生存率と恒常性増殖が増加することによって補われる。

・リンパ球減少宿主にCD4 + CD25 +細胞を入れると、自己免疫症状が和らぐ。しかしT細胞が十分にある動物からCD25+細胞が無くなるだけでは自己免疫症状は起こらない。

つまり

 宿主のリンパ球が減少している

  →CD4 + CD25 +細胞が枯渇すると自己免疫を引き起こす

 宿主に十分T細胞がある

  →CD4 + CD25 +細胞が枯渇するだけでは自己免疫引き起こさない

 …免疫寛容には様々なメカニズムが関与している。

・制限性T細胞の抑制機能を観察するのにはリンパ球減少ホストであることが必要。→これはリンパ球の代償的増殖が制限性T細胞機能に関与しているから。

・リンパ球減少宿主にCD4+ CD25+T細胞とCD4+ CD25–T細胞を同時に入れると…それぞれ大きく増大。

→制限性T細胞は代償的増殖を直接は妨げない。

・リンパ無形性マウス(多臓器自己免疫を示す)で増殖したT細胞を免疫不全レシピエントに入れると自己免疫を誘発。

・1型DMもリンパ球減少や免疫再構築と関与。免疫刺激性マイコバクテリア細胞壁成分で構成される完全フロイントアジュバントによる免疫は、1型DM発症を防ぎ、リンパ球減少状態を回復に導く。

・新生児マウスの胸腺を切除するか、シクロスポリンAを投与するかすると、糖尿病発症しやすくなる。

・臨床的にもリンパ球減少に誘発されえるリンパ球の代償的増殖が自己免疫疾患は発症に関与していることは臨床的に、明らかである。SLE、シェーグレン症候群、ウイルス感染によって誘発された自己免疫疾患においてリンパ球減少が確認されている。

・重症筋無力症患者では胸腺つじょが行われる→T細胞減少やT細胞の多様性減少、それに続発するSLE発症が報告されている。

・RA患者ではT細胞クローンの増殖が見られ、T細胞のテロメア短縮が見られるなど短期間で複製が何度も行われていることを示唆する徴候が見られている。RAにおける自己免疫は、①加齢によって胸腺活動が低下すること ②T細胞低下を補うためのナイーブT細胞増殖 が関与しているかもしれない。

・リンパ球減少、活性化、メモリーT細胞増殖が1型糖尿病発症に関与。

 

※訳者補足:制限性T細胞

 

ウィルスなどに感染した細胞を見つけて排除します。T細胞は、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、制御性T細胞(レギュラトリーT細胞)の3種類があり、それぞれ司令塔、殺し屋、ストッパー・クローザーの役割があります。

  1. キラーT細胞
    樹状細胞から抗原情報を受け取り、ウィルスに感染した細胞やがん細胞にとりつき排除する、という「殺し屋」の働きを持っています。
  2. ヘルパーT細胞
    樹状細胞やマクロファージから異物の情報(抗原)を受け取り、サイトカインなどの免疫活性化物質などを産生して、攻撃の戦略をたてて指令を出します。
  3. 制御性T細胞
    キラーT細胞などが、正常細胞にも過剰な攻撃をしないように、キラーT細胞の働きを抑制したり、免疫反応を終了に導いたり、というストッパー・クローザーの働きを持っています

    出典:「免疫細胞の種類と働き」https://www.gan-info.jp/dendritic/immunotherapy/immune-cell/