こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】Tリンパ球の適応と免疫における恒常性~その2~

前回の文献紹介記事の続きです。

 

前回の記事はこちら↓

【文献紹介】Tリンパ球の適応と免疫における恒常性~その1~ - こりんの基礎医学研究日記

 

J Leukoc Biol. 2005 Sep;78(3):575-84.
T Cell Homeostasis in Tolerance and Immunity
Annette M Marleau, Nora Sarvetnick

 

THE SELF‐TOLERANT T CELL REPERTOIRE IS SHAPED INTRA‐ AND EXTRATHYMICALLY

・T細胞は胸腺で発生し、末梢にてクローン性に増殖する。

・T細胞は、侵入する様々な外敵を、抗原を認識することで攻撃するとともに、自己の細胞は攻撃しない、という2つを両立する必要がある。

・これを実現するために2つのプールがある。

 …ナイーブT細胞(CD44低)とメモリーT細胞(CD44高)である。

(※補足:ナイーブT細胞は成熟して胸腺から出たばかりでまだ一度も抗原と遭遇したことがない。抗原提示を受け活性化されるとエフェクターT細胞となる。同じ抗原暴露が持続しない限り、エフェクターT細胞は90%ほどが1-2週間で死滅し、残った一部がメモリーT細胞としてプールされる。)

・これら2つは独立してコントロールされているが、総数は生涯を通じてほぼ一定に維持されている。

・T細胞成熟の過程で以下の選択が起こる。

 自己抗原および自己MHCに対する親和性の低いT細胞→胸腺から出ていける

 自己抗原および自己MHCに対する親和性の高いT細胞→胸腺から出ていけない
 (アポトーシス)

・こうしてできたT細胞はCD4+とCD8+があり、レパートリーはT細胞受容体(TCR)βで2x10^6に及ぶなど非常に多様性が高い。

・メモリーT細胞はナイーブT細胞に比べると多様性は低下するが、それでも10^5~10^6種類ある。

・マウスに胸腺を移植し、胸腺の数を増やしてもナイーブT細胞数は増えるわけではなく一定。

・リンパ球低下状態では、ナイーブT細胞はそのナイーブ性を失い、メモリーT細胞に似た特徴を有するようになる。

・遺伝子発現プロファイリングを行っても、もともとのメモリーT細胞とリンパ球低下によって代償的に作られたメモリーT細胞は類似している。

・代償的に作られたCD8 T細胞はエフェクター機能を得ることができる。

・代償的に作られるT細胞は非常に高い増殖能を有している。

・新生児マウス(出生時には末梢にほぼT細胞なし)の胸腺を切り取る実験をしてみると…リンパ節、脾臓にそれぞれ7日目、15日目にならないと成人割合のCD4+リンパ球は出てこない。

・成体ナイーブCD4+T細胞を新生児マウスに移植すると増殖はするが成人と同レベルにはならない。

・成体マウスにナイーブCD4+T細胞を移植するとそれが成体のものであっても新生児の物であっても同様に増殖。→移植宿主環境が重要と考えられる。

・加齢によって胸腺の退縮が進み、とナイーブT細胞プールの補充にも制限が生じてしまう。→免疫の老化につながる。また、TCRレパートリーの多様性の減少も起こる。

・加齢がT細胞プール構成に変化を与える。

 

今回は以上です。

 

 

※補足:免疫寛容とは?

 

免疫寛容(めんえきかんよう、英語: immune tolerance / immunological tolerance)とは、特定抗原に対する特異的免疫反応の欠如あるいは抑制状態のことを指す。免疫系は自己のMHC分子に抗原提示された自己の抗原ペプチドを認識しないようになっており、これを自己寛容という。ところが免疫寛容が破綻して自己抗原に対して免疫反応を示すことが原因となる疾病があり、これが自己免疫疾患である。

全ての抗原に対する免疫反応の欠如あるいは抑制状態は免疫不全と呼ばれ、免疫寛容とは異なる病的状態である。

免疫を担当する細胞であるT細胞は、あらゆる病原体に対応できるよう、抗原に結合する部位(T細胞受容体;TCR)に無数のバリエーションを持った物がランダムに作り出される。ただし、このようにランダムに作られた物の中には自分自身の細胞を異物と見なして攻撃してしまう物が含まれるので、胸腺においてT細胞が成熟する過程で、そのように自己抗原に強く反応するT細胞は死滅させられる。しかし、この選別過程では胸腺で発現している自己抗原を攻撃するT細胞が除外されるのだが、同一個体の細胞であってもある特定の臓器でのみ発現する抗原を持った細胞が存在しており、その抗原は胸腺では発現していないため、胸腺の選別メカニズムではこの特殊な抗原を持った細胞を異物と認識して攻撃するT細胞を排除できない。このような本来は自己なのだがT細胞から見て非自己に見える細胞を攻撃しないようにする仕組みが免疫寛容である。ある特定の条件の元にT細胞がその特殊な自己抗原に結合した場合に免疫寛容が成立する。

出典:Wikipedia

 

その他理解の参考になりそうなサイト:

医療関係者ですか?「はい」「いいえ」|(JB)日本血液製剤機構 医療関係者向け

免疫寛容と自己免疫 | アブカム

 

※補足:T細胞受容体(TCR)

 TCRはα鎖とβ鎖、あるいはγ鎖とδ鎖の二量体から構成される。前者の組み合わせからなるTCRをαβTCR、後者の組み合わせからなるTCRをγδTCRと呼び、それぞれのTCRを持つT細胞はαβT細胞[注 2]、γδT細胞と呼ばれる。

出典:Wikipedia