こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】アデノウイルスベクター筋注を用いた低ホスファターゼ症の治療~その2~

前回の続きです。

 

前回の記事はこちら↓

【文献紹介】アデノウイルスベクター筋注を用いた低ホスファターゼ症の治療~その1~ - こりんの基礎医学研究日記

 

. 2016; 3: 15059.
Published online 2016 Feb 3.
 
 
 

Treatment of hypophosphatasia by muscle-directed expression of bone-targeted alkaline phosphatase via self-complementary AAV8 vector

 

Results

①MCKプロモーターによる筋局所的トランスダクション

・MCK(=muscle creatine kinase; 筋肉特異的)をプロモーターとしてEGFPが発現するような配列を作成。これを様々な細胞にトランスダクションすると…

→筋肉細胞(C2C12=C3Hマウスからの筋芽細胞様細胞株)でのみEGFPが発現することを確認。

・scAAV8-MCK-EGFPをマウスに筋注射→14日後観察→EGFP発現が骨格筋・心筋でのみ確認された。

 

②scAAV8-MCK-TNALP-D 10 –をマウスに注射すると生存期間が延長!

・scAVV8-MCK-TNALP-D 10(2.5×10 12ベクトルゲノム(vg)/ body)を生後1日の新生児マウスの大腿四頭筋(両側)に筋注。

→その後のTNALP-D 10レベルとALP活性を解析。

・1U/ ml以上の血漿ALP→Akp2 - / -マウスの生存延長が可能であることが分かっている。

・生後30日目の未治療Akp2 - / -マウスの血漿ALPは0.05 U / ml(n = 1)。

・scAAV8-MCK-TNALP-D 10 –治療後Akp2 - / -(TNALP-D 10)マウス(n = 9)では…Akp2 + / +(野生型)の10倍以上!

…4.92±1.72U/ml(生後30日)

・未治療マウスと比較して有意に生存期間が延長した。

 

③治療後Akp2 - / -は正常身体活動レベル

・未治療マウスは生後6-8日で成長障害、生後3週間以内に死亡。

・治療後マウスとWTマウスで総移動距離に有意差なし。(1分あたり何cm進めるか)

 

④筋注後のALPレベル

・治療後マウスのベクター分布とALP活性を骨格筋、心臓、脾臓、肝臓などの8臓器で検査。

ベクターコピー数は骨格筋>心臓>肝臓の順に多く、ALP`活性は骨格筋>骨>生殖器の順に多い。(WT

では、ALP活性は腎臓>骨>生殖器の順に多く、骨格筋ではほぼなし。)

・特に注射された筋肉部分で高濃度のALP検出。

 

⑤TNALP-D 10トランスダクション後マウスでは骨形成が改善

・90日後TNALP-D 10マウス(n = 9)とWTマウス(n = 5)で、前脚、後脚、椎骨などの骨のX線撮影を実施。

・未治療マウスは出生時には正常様、しかし生後20日目に大腿骨の短縮や鼻骨椎間隔の拡大など明らかな変化あり。

・治療後マウス、WTマウスは正常骨格を維持。

・生後90日では治療後マウスで大腿骨が有意に短縮、尾骨椎間隔・椎体間隔が有意に拡大。

→治療により骨形成は改善したものの、長管骨の成長には制限あり?

 

⑥マイクロCT解析:治療後マウスでの石灰化はやはり不十分

・生後90日治療後マウスを観察→骨幹部では正常骨形成

・しかし骨端骨では皮質骨の欠如や骨端の変形などが見られ、骨形成は不十分であった。

・また低石灰化あり(骨密度、骨体積/組織体積がWTマウスと比較して有意に低い)。

 

⑦治療後マウス骨の組織・病理学的観察

・治療後マウス大腿骨で、異常な軟骨細胞の増殖と不規則な細胞配置が見られた。

・未治療マウス大腿骨ではALPシグナル見られず、類骨様組織の拡大と異常な軟骨細胞の増殖あり。

・治療後マウスでは、成長板と骨膜外膜にALPシグナルを認めたが、正常よりは低かった。

・治療によってAkp2 - / -マウスでも1U/mlの血漿ALP活性を得ることができ、これにより生存期間延長も可能となったが、大腿骨構造を完全に正常にするには不十分であることが分かった。

 

次回はDiscussionです。