こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】潰瘍性大腸炎患者の腸管上皮細胞における体細胞遺伝子変異

本日も文献紹介です。

 

 

Somatic inflammatory gene mutations in human ulcerative colitis epithelium

  

私は知らなかったのですが、Last authorである佐藤氏はオルガノイドとというものを作った方のようです。

 

オルガノイドは以前にも少し文献を紹介しました↓

teicoplanin.hatenablog.com

よければご覧ください。

 

では文献についてです。安倍首相も罹患している潰瘍性大腸炎に関する論文です。潰瘍性大腸炎の患者は大腸がんになりやすいことが知られていますが、それがなぜかこれまではあまりよくわかっていませんでした。

その理由を今回の文献では(一部)示唆しています。

 

Abstract

通常、ヒトの体細胞は加齢に伴い、癌化につながる遺伝子変異のクローン拡大が起きてくる。しかし、このようなクローン拡大が、消化管の非腫瘍細胞にも存在しているかは不明であった。今回、我々は、76のクローナルなヒト大腸オルガノイドのwhole-exome sequencingデータを用い、潰瘍性大腸炎患者の炎症性上皮細胞でどのように特異的な体細胞変異が起きているかを特定することを試みた。炎症性上皮においては、大腸がん患者ではあまり見られない、IL-17シグナル伝達に関与する多くの体細胞遺伝子変異(NFKBIZ, ZC3H12A, PIGRなど)の蓄積が見られた。ターゲットシークエンシングにより、IL-17シグナル伝達に関与する多くの変異が確認された。CRISPRに基づいた大腸オルガノイドの非特異的ノックアウトスクリーニングによって、IL-17Aによって誘導されるプロアポトーシス応答が、遺伝子変異によっておこらなくなってしまうことを示した。これらの遺伝子変異の中には、実験用腸炎マウスの病態を悪化させることが知られているものもある。そして、ヒト大腸上皮細胞における体細胞突然変異は、炎症プロセスに関与している可能性がある。我々の今回の発見は、炎症性が起きている細胞において遺伝子的にどのような減少が起きているかを明らかにし、潰瘍性大腸炎の病態生理への潜在的関与を明らかにするだろう。

 

論文のまとめと概要

・健常人、潰瘍性大腸炎で大腸がんのない患者、潰瘍性大腸炎で大腸癌がんのある患者からそれぞれ消化管細胞を内視鏡で採取し、遺伝子解析を行う。

潰瘍性大腸炎患者に関しては、同じ患者から、炎症を起こしている部分(左側結腸)と起こしていない部分(右側結腸)の2か所から検体を採取し解析した。

潰瘍性大腸炎患者では治療期間が長くなるにつれて、奥の遺伝子変異が見つかった。(高齢になるにつれ増えるわけではなく、治療期間が長くなるにつれて増えていた。)

・中でもIL-17経路に関与する遺伝子変異が多かった。

・健常人と潰瘍性大腸炎患者の大腸組織を免疫染色してみると、健常人ではまんべんなく見られているはずのPIGRやsIgAなど(これらがIL-17経路に関与)が、潰瘍性大腸炎患者ではまばら=モザイク状になっていた。(炎症が起きている細胞は染まらない)

・CRISPRシステムを用い、PIGRやsIgAを欠損させた(Il-17経路がノックアウトされている)オルガノイドを作成→どのような挙動を示すか観察することを試みた。

・通常、IL-17で細胞を処理すると、アポトーシスが誘導され細胞は死ぬ。しかしIL-17経路がノックアウトされていると、アポトーシスが起こらないので、細胞は生き残ってしまう。

・IL-17によって細胞が死ぬしくみとしては、IL-17処理によって細胞内の一酸化窒素合成酵素=NOSが上昇することが筆者らの実験によって分かったため、これがアポトーシスを誘導している可能性が示唆された。

・健常人の大腸にはNOS蓄積がほとんどないのに対し、潰瘍性大腸炎の患者の大腸にはNOS蓄積多数あることがわかった。

潰瘍性大腸炎の患者で大腸がんが起こる理由として、健常人で起こるIL-17経路活性化によるアポトーシスが起こらず、アポトーシスすべき細胞が生き残ってしまうため、遺伝子変異が蓄積してしまうことが原因ではないかと示唆される

※ただし今回の論文では癌化まで示されておらず。

 

今回は以上です。