こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】RNAスプライシング阻害剤・PRMT阻害剤によるがん治療

先日の抄読会で取り上げられた文献の紹介です。

 

今回は抄録の和訳+少し解説です。

 

 2019 Aug 12;36(2):194-209.e9. 

Therapeutic Targeting of RNA Splicing Catalysis through Inhibition of Protein Arginine Methylation.

Fong JY1Pignata L2Goy PA2, et al.
 

1.Abstract

RNAスプライシング因子をコードしている遺伝子における癌関連変異は、主に白血病で起こるが、その他の様々な固形腫瘍でも起き、これらの細胞の生存は野生型スプライシング因子に依存している。このことから、性白血病患者においてスプライソソーム阻害剤を開発し、治療を行なおうという臨床的努力がなされている。今回我々は、PRMT5 と type I protein arginine methyltransferases (PRMTs)によってそれぞれ媒介される、アルギニンの対称性または非対称性阻害により、スプライシング精度が低下し、その結果として、野生型に比してスプライシング因子変異白血病株で優先的に死滅が見られるということを突き止めた。今回の結果は、PRMT阻害、PRMT5と1型PRMT阻害の組み合わせによる相乗効果、癌におけるPRMT阻害の治療効果のメカニズムの根本に関わる遺伝的仕組みを提示するであろう。

2.RNAスプライシングとは?

RNAは、核内でDNAをもとにRNAポリメラーゼⅡによってまず作られるが、この段階ではまだ前駆体である。

以下の3つの過程を経て成熟mRNAとなり、核外へ出て翻訳=タンパク質を作るという流れになっている。

 

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上記のRNAスプライシングの過程に問題が起きると白血病などの癌が生じてしまう(スプライシング因子をコードしている遺伝子に間違いが起こることによって、正しくスプライシングがされなくなってしまう)。

 

このため、その細胞の生存は野生型=正しくスプライシングが行われている細胞に依存している。

 

参考サイト:

RNAプロセシング | 遺伝子の発現 | NS遺伝子研究室

 

3.タンパク質アルギニンメチル化酵素PRMT

解説があるサイト見つけました。

 

アルギニンは、タンパク質アルギニンメチル化酵素 (PRMT) ファミリーによって、モノメチル化あるいは対称または非対称にジメチル化されます。PRMTは、そのメチル化の仕方によって三つのタイプに分類されます。三つすべてのPRMTは、アルギニンをモノメチル化できます。モノメチル化されたアルギニンはさらにメチル化され、I型PRMTによって非対称性ジメチルアルギニンに、もしくはII型PRMTによって対称性ジメチルアルギニンになります。III型PRMTは、アルギニン残基のモノメチル化のみ行えます。リジン同様、アルギニンのメチル化の程度と局在は、転写活性に影響を及ぼします。

 

出典:

CSTジャパン - ヒストンのメチル化 (Histone Methylation)

 

4.私見

PRMT阻害剤が種々の癌に効果的であるということはこれまでも言われたようですが、その機序などは不明であったようです。血液腫瘍・固形腫瘍含め新たな治療選択肢となるでしょうか。これだけ見るとスプライシング阻害の大きなデメリットはあまりないように見えますが、欠点はなんなのでしょうか。スプライシング自体が起こらないとそれはそれで何か問題が起きそうな気もしますが、そこは野生型スプライシングのみで頑張ってもらうのでしょうか…いつか臨床に出る日を待ちたいと思います。

 

本日は以上です。