こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】山中4因子の中のOct4を用いないiPS細胞樹立

気になった論文のAbstractだけ和訳し、ちょっとだけ解説もいれます。

 

本日はCell Stem Cellです。

 

 2019 Oct 30. 

Excluding Oct4 from Yamanaka Cocktail Unleashes the Developmental Potential of iPSCs.

 

1.<文献紹介の前に>山中4因子

ヒトの皮膚の細胞から作った線維芽細胞に4つの因子をレトロウイルスベクターを用いて入れることでiPS細胞ができることを山中伸弥先生が発見。

 

その4つが Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc

 

この中で、例えばc-Mycは、用いることによってiPS細胞腫瘍化リスクがあるとされており、c-Mycを用いないiPS作成法なども提唱されている。

 

そんな中でOct4はiPS細胞樹立に必須とされていた。

 

2.Abstract

Oct4は山中因子の中でも最も重要な因子であると広く考えられてきた。今回、我々は、Sox2, Klf4, cMyc (SKM)の3因子のみでマウス体細胞のリプログラミング、つまりiPS細胞かが可能であることを示す。過去の実験で、レトロウイルスベクターを用いOct4以外でiPS細胞樹立を試みるも失敗した経緯があるが、繊維芽細胞にSox2とcMycの2つを同時に導入することでレトロウイルスの急速なサイレンシングを引き起こすことにより、この失敗を克服することに成功した。SKM誘導は、Oct4非存在下の線維芽細胞においても多能性ネットワークを部分的に活性化する可能性がある。重要なことだが、外因子であるOct4非存在下でiPS細胞樹立が可能であるということは、iPS細胞の可能性を大きく広げ、4倍体補完アッセイによって得られたall-iPSマウスの可能性も広げる。我々のデータは、リプログラミングの最中のOct4過剰発現は、off-target(予期しない)遺伝子活性化やエピジェネティック異常を招くことを示唆しており、これはiPSテクノロジーのさらなる発展と応用にとって重要である。

 

3.私見

山中先生らは、上記4因子を発表したのち、c-Mycを用いることによるiPS細胞腫瘍化の懸念から、新たにGlis1を用いたiPS細胞樹立法に関する論文を発表している。この論文の中で、iPS細胞樹立に必要な因子の再検討を行っており、Oct4に代わる因子も検討されていたが、見つけられなかった、とされており、その意味で今回の研究は意義深いかもしれない。c-MycとOct4どちらの方がよりiPS細胞にとってマイナスな影響を与えるのかは筆者に十分な知識がなく不明だが、Oct4を使用しなくても済むならばその方がやはりいいように思う。

 

より質の高いiPS細胞が生み出されるべく今後の研究が進むことを願う。