こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

トランスフォーメーション後培養は要るのか要らないのか?

昨日は大腸菌へのトランスフォーメーションを行いました。

 

半年ほど前にはやる機会がたくさんありましたが、その後しばらくは別の実験をしており、昨日久しぶりにやる機会がありました。

 

今日はトランスフォーメーション後培養(英語では"outgrowth", "recovery time"などと言うようです)について書きたいと思います。

 

私が最初にラボの先輩に教わったトランスフォーメーションプロトコールは以下の通りです。

  1. -80℃で保存しているコンピテントセルを取り出し、氷上解凍。
  2. コンピテントセル20-30μlに目的のプラスミド1μl(1-10μl=1-10ng:量はコンピテントセルの5%以下になるように)を入れる。
  3. 氷上で30分静置。(ヒートブロックを42℃に温めておく)
  4. ヒートブロック42℃に45秒間置き、すぐに氷上へ。【ヒートショック】
  5. 氷上2分静置。
  6. 10mlチューブにSOC培地250mμl(コンピテントセル+プラスミドの総量の約5倍量)を入れ、5のサンプルを入れる。
  7. 20分程度振とう。【後培養】
  8. アンピシリン添加寒天培地に撒き、37℃インキュベーション(オーバーナイト)

これを教えてもらったときは、後培養に相当する6-7の過程はなくていいかも?と言っていました。実際、別の先輩と行った時には、この過程は省略し、氷上に数秒間置いたあとにすぐに寒天プレートに撒いていました。それでも翌日にはきちんとコロニーが生えました。

 

後培養はそもそもなんのために必要なのか調べてみますと、主には薬剤耐性をうまく発揮させるためのようです。つまりプラスミドに薬剤耐性(今回の場合はアンピシリン耐性)を持つようにする配列がコードされているわけですが、それが大腸菌に導入された直後、つまりまだ薬剤耐性タンパク質が発現していない段階でプレートに撒いてしまうと、薬剤耐性が発揮されずコロニーが生えなくなってしまうというのです。

 

"addgene"というサイトで紹介されている

Addgene: Protocol - Bacterial Transformation

の中では、

*Pro-Tip* This outgrowth step allows the bacteria time to generate the antibiotic resistance proteins encoded in the plasmid backbone so that they will be able to grow once plated on the antibiotic containing agar plate. This step is not critical for Ampicillin resistance but is much more important for other antibiotic resistances. 

 

と書かれています。しかし、一方で同じサイト内には、実験を短縮する方法として、この過程を短くする、またはカットするといったことについても書かれています。

 

 

  • How can I save time when carrying out transformations?

 

 

If you are not concerned with transformation efficiency (such as when you have a tube of plasmid DNA and just need to transform bacteria so that you can grow up more of the plasmid) you can save a lot of time by shortening or skipping many steps and will still get enough colonies for your next step. Remember that each of these shortcuts will reduce the efficiency of the transformation, so when higher efficiency is needed follow the complete protocol.

  • Thaw the competent cells in your hand instead of on ice
  • Reduce step 4 from 20 - 30 mins to 2 mins on ice before heat-shock
  • Shorten or skip the outgrowth (for Ampicillin resistance it is ok to completely skip the outgrowth, for the other antibiotics it is a good idea to outgrow for at least 20-30 mins)

 

これによるとアンピシリンの場合は完全にカットしてとよいようなことが書かれていますが、それがなぜかについては明言されていませんでした。

 

成書や論文ではありませんが、ネット検索で以下のような記事を見つけました。

MoBio question: Minimum recovery times after plasmid transformations in E. coli?

I know ampicillin doesn't require recovery (only affects actively dividing cells), but what about kanamycin or chloramphenicol for example? I've heard an hour of outgrowth most commonly, but am sure some corners can be cut. Does plasmid copy number make a difference (e.g. low-copy pSC101 vs. high-copy colE1)? Plating on cool vs. pre-warmed plates? Protocol sharing time!

MoBio question: Minimum recovery times after plasmid transformations in E. coli? : biology

 

アンピシリンは活発に分裂する細胞にだけ働くから後培養不要ということでしょうか?

 

また別のブログ記事で、ヒートショックも後培養もいらないといったようなことも発見しました。

 

tenure5.vbl.okayama-u.ac.jp

 

ここで、また私自身の実験の話に戻りたいと思います。

 

これまではラボの方で作成していたコンピテントセルを実験に使用していました。

 

しかしあるとき、もっと良い(?)コンピテントセルがやってきたため、それで実験を行いました。

 

これです↓

international.neb.com

 

これを買うとプロトコールが付属してついてくるのですが、やはりといいますか、これには後培養ステップも明記されており、さらにはoutgrowth mediumも付属でついてきていました。

 

私はこれまで後培養なしでもコロニーが生えていたので、この新しいコンピテントセルでも後培養をカットし実験を行ってみました。

 

しかし…コロニーが生えません。何度か繰り返しやってみましたが、生えても3-4個とかなりさびしい感じでした。

 

そこで付属プロトコール通りに、きちんと付属のoutgrowth mediumを用い、後培養ありで行ってみました。

 

すると…コロニーが生えました!!

 

ちなみにアンピシリン耐性です。

やはり後培養が重要だったのでしょうか?

ちなみに付属プロトコールでは1時間後培養するようにありますが、30分でも十分にコロニーは生えました。

 

New England Bio Ladのホームページにあるプロトコールには以下のようなコメントがありました。

 

Outgrowth: Outgrowth at 37°C for 1 hour is best for cell recovery and for expression of antibiotic resistance. Expect a 2-fold loss in transformation efficiency for every 15 minutes this step is shortened. SOC gives 2-fold higher transformation efficiency than LB medium; and incubation with shaking or rotating the tube gives 2-fold higher transformation efficiency than incubation without shaking. 

Transformation Protocol (C2528) | NEB

 

他にも、ネット検索してみますと、「セオリー上、アンピシリン耐性の時はカットできるが、実際にはコロニー数が大きく減ってしまう」「使用するコンピテントセルや導入するプラスミドによる」などの意見も出てきます。

 

非常にあいまいな結論になりますが、

「トランスフォーメーション後培養は、状況によっては省略できることもある」

といったところでしょうか…。

 

30分から1時間程度実験が短くなる可能性があるので、カットできるようなら是非したいところですが、試行錯誤しながら…になるのでしょうか。

 

今回は以上です。またときどき日々の実験に際し、考えたことや勉強したことなどを書いていきたいと思います。