なんとなく目についたので前立腺がんに関する記事を読んでみます。
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CANCER
Prostate cancer hijacks the microenvironment
Phillip Thienger & Mark A. Rubin
Nature Cell Biology volume 23, pages3–5(2021)Cite this article
- 新しい治療の登場で死亡率は低下してきてはいるが、未だ前立腺がんは男性における主要な悪性腫瘍である。
- 限局性前立腺がんの5年生存率はほぼ100%だが、転移性になると31%に低下する。
- ホルモン療法(アンドロゲン受容体拮抗薬)は有効な治療薬ではあるが、一部は無効であり、ホルモン療法無効の前立腺がんに対する治療は確立していない。
- これに関して、腫瘍微小環境などを調査するため、 Chen et al.はシングルセル転写因子分析を24の前立腺がんサンプルにおいて行った。
- 腫瘍全体としては管腔細胞が優位なのに対し、前立腺がんの悪性度を示すグリソンスコアが高いがんでは基底細胞や中間細胞が優位であることがわかった。
- また、すべてのサンプルで、破骨細胞関連経路の活性化を示す腫瘍関連マクロファージが見られた。骨は前立腺がんの主要な転移先であり、この結果は大変興味深い。
- 腫瘍関連マクロファージは、ケモカインによって腫瘍細胞にジャックされたマクロファージであり、腫瘍微小環境へ移動し、血管内皮細胞のDNA損傷を誘発するなどして腫瘍の成長に適した環境を作っていく。
つまり、前立腺がん転移の仕方として本文献で示唆されているものは以下の通り。
出典:本文Figue 1
腫瘍細胞に浸潤してくる免疫細胞(T細胞など)も非免疫細胞(線維芽細胞や内皮細胞)も、腫瘍細胞の影響を受け(プライミング)、腫瘍の転移誘発の方向に働く。
a. T細胞が腫瘍細胞に浸潤→腫瘍細胞に影響されKLK3を発現するようになる→KLK3陽性T細胞がリンパ節に移動→腫瘍細胞を引きつけリンパ節転移を引き起こす。
b. がん関連線維芽細胞や活性化内皮細胞といった非免疫細胞が腫瘍微小環境の影響を受け、腫瘍内から転移をサポートする。
c. 破骨細胞的特徴を有した腫瘍関連マクロファージが骨に移動し、骨転移を誘発する。
前立腺は免疫細胞が乏しく、免疫の「砂漠」などと言われてきた。免疫療法もこれまでの治療戦略には組み込まれておらず、その効果のほども不透明であった。しかし上記のように免疫細胞も腫瘍細胞転移に関与している可能性があり、免疫療法も有効かもしれない。これにはさらなる研究が必要である。