文献紹介です。前回Abstractのみ紹介した文献です。
Ivanovs A, et al.
Vast Self-Renewal Potential of Human AGM Region HSCs Dramatically Declines in the Umbilical Cord Blood. Stem Cell Reports.
2020 Oct 13;15(4):811-816.
Introduction
- 過去の実験から、人における最初の造血(造血幹細胞=HSCの発生)は、カーネギー発生段階Carnegie stages (CS) 14–17日 (developmental days 32–41)の段階で大動脈・性腺・中腎領域(aorta-gonad-mesonephros region ; AGM領域)で起こると考えられている。
- この最初のHSCがどの程度の娘細胞を産生するかこれまで不明だった。
→これを今回の実験で突き止める。 - また、移植にしばしば用いられる臍帯血中のHSCの自己複製能を調査する。(これは今まで量的な評価が行われてこなかった。)
Result&Discussion
- ヒトAGM領域のHSCを用いて限界希釈移植を実施した。
- 限界希釈法を用いて計算したところ、
Experiment 1: 1つのヒトAGM領域(CS 16を使用)から600の娘HSCが産生される。
Experimtnt 2: 1つのヒトAGM領域(CS 17を使用)から1620の娘HSCができることが明らかに。
Experimtnt 3: 1つのヒトAGM領域(CS 15を使用)から730の娘HSCが産生される。 - 肝HSCの長期再増殖能はAGM領域のHSCより劣る。
- ヒト臍帯血由来CD34+細胞50000個を1匹のマウスに移植。生着した後に、そのレシピエントの骨髄を希釈し再移植。→レシピエント1匹あたり10-20の臍帯血移植に寄り5か月後に約33の娘HSCが得られる。
→AGM領域と比較し臍帯血HSCの自己複製能は非常に低い。
【まとめ】
- AGM領域由来のHSCは1つのAGM領域あたり600-700個の娘HSCを産生。固体によっては1620個産生。この違いは遺伝子的背景の違いによるものと思われる。
- 同じ遺伝的背景の肝臓では再増殖能大きく低下。またヒト臍帯血でも大きく低下。→肝臓HSCで既にこの低下が始まっているか突き止めるにはさらなる研究が必要。
- ヒトHSCの強力な自己複製能が何に起因するか調べることで移植治療に役立つかもしれない。