こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】哺乳類胚における細胞運命決定~ケラチンの役割~

ケラチンに関する文献紹介です。

 

ケラチンに関する概要は昨日の記事↓

teicoplanin.hatenablog.com

 

Lim HYG, et al.

Keratins are asymmetrically inherited fate determinants in the mammalian embryo.

Nature. 2020 Sep;585(7825):404-409.

 

  • 一般的に、発生の過程において、Morula=桑実胚ごろに細胞運命が決定するとされている。しかし実はもっと早く決定するのでは?というのが今回の論文。
  • F-actinや微小管といった他の細胞骨格成分は、8細胞期においては均一に分布しているのに対して、ケラチンは分布が偏っている=極性がある。
  • マウスでも人でもこの極性は確認でき、また8細胞期から16細胞期に分裂するとき、8細胞期時点で外側に位置していたケラチン陽性細胞は、分裂時にやはり外側に分布する。(分裂したもう片方の娘細胞=ケラチンを含んでいない方の娘細胞は胚の内側に分布する。)
  • ケラチン陽性細胞にサイトカラシンBやPARD6B KDを注入するとケラチン集簇はなくなる。
  • ケラチン陽性細胞では対称分裂を規定するPARD6B遺伝子発現が亢進。
  • ケラチン陽性細胞ではトロフォブラストなど重要なマーカーが発現しており、逆にNanogなど発現が低下している細胞も見られる。
    やはり8細胞くらいから極性が見られている。
  • 4細胞期からその予兆があるのでは?
  • ケラチンの局在があまり見られない4細胞期でBAF155染色を実施。4細胞期の段階で植物極側の1個の細胞=Vegetal cellでBAF155は特異的に発現。8細胞期となるとき、その細胞を軸に栄養外胚葉への運命が決定されている。
  • まだ1細胞の段階でBAF155のsiRNA=BAF155を阻害するものを投与→ケラチンは4細胞期以降でも確認できず。
    →ケラチンを誘導するタンパク質としてBAF155が重要である可能性がある。

【まとめ】

  • 4細胞期には既にBAF155の発現により栄養外胚葉への運命が決定している。
  • 8細胞期にはケラチンによる局在の変化が起こり、明確な細胞運命決定が起こる。
  • 桑実胚に行くに従いCDX2などのTB遺伝子増幅。(この点については上記では述べておらず。)