再び文献紹介です。以前抄読会で扱った内容です。
タイトルの通り「LMO2陽性DLBCLにおいてはPARP阻害薬が効果的」という内容なのですが、本文を読むうえでの基礎知識として重要な、「合成致死」と、2つのDNA修復機構についても合わせて解説します。
1.「合成致死」とは?
国立がん研究センターのページを参考にしました。
1対になっている2つ遺伝子において、どちらか片方だけに遺伝子異常が起きても死なないが、両方に遺伝子異常が起きると細胞が死んでしまうという関係にある遺伝子のことです。
がんの発症には以前の記事でもふれたように遺伝子異常が関与しています。
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発がんに関与する遺伝子異常は2種類のタイプがあります。
がん遺伝子の活性化によってがん細胞が増えてしまうというタイプでがんが起こっている場合、それを阻害することによってがん細胞の増殖を抑えるという方法があります。
肺がん治療薬であるゲフィチニブ(商品名イレッサ)は、これを利用しています。
しかし右のように抑制されてしまうタイプの発がんだとこの方法は使えず、ここで1つの方法であるのが合成致死を利用した方法です。
つまり、1つの遺伝子異常が起きて癌細胞となってしまっている細胞の、もう1つの遺伝子(合成致死の関係にあるもう片方の遺伝子)を阻害することで、その細胞=がん細胞を死なせるという方法です。
以下の図は上記のサイトから引用しました。
2.2種類のDNA修復機構について
2本鎖のDNAが、例えば放射線照射などで傷ついて切断されてしまたとき、その修復方法には主に2つの方法があります。非相同末端結合(NHEJ)と相同組換え(HR)です。
HRの方が少していねいな修復になります。
3.今回の文献について~LMO2陽性DLBCL患者におけるPARP阻害薬~
代表的悪性リンパ腫の1つであるDLBCLの患者さんのうち、LMO2蛋白を発現している患者さんは、その代表的治療法であるR-CHOP療法が効きやすいということがこれまでもわかっていました。
しかし今まではこれが何故かわかりませんでした。
が、今回の筆者らの実験を通して、以下のようなことが分かりました。
- LMO2発現が高いDLBCL細胞では、2本鎖切断が起きやすくなっている。
- また、NHEJ(より粗雑なDNA修復)が起きやすくなっている。(HRは阻害されている。)
- 53BP1というタンパク質とLMO2は相互に作用し、HRを阻害→NHEJに持っていく。
- LMO2発現が低い細胞ではBP531はBRACA1によって53BP1はDNA切断部分から除去され、HRによるよりていねいな修復が起こる。
- BRACA1と合成致死の関係にあるのがPRAP1である(これは既に乳がん治療に利用されている)。
- PARP(ポリADP-リボースポリメラーゼ)阻害剤であるオラパリブは、LMO2発現が多いDLBCL細胞においてアポトーシスを誘導する。
- オラパリブをDLBCL細胞に作用させるとアポトーシス↑ さらにドキソルビシンなど他の抗がん剤と併用することでさらに効果アップ(シナジー効果)
- DLBCLのみならず、T-ALLや濾胞リンパ腫など他の病型でも同様の傾向が見られた。
まとめると、LMO2陽性の腫瘍ではPARP阻害剤が有効とのことです。
LMO2陽性のDLBCLの予後がよいということ自体は以前からわかっており、予後のいい群に対する治療を掘り下げてどうするのか…と言う意見が抄読会で出ており、なるほどな…と思ってしまいました。
今回は以上です。