先日聞いたセミナーの内容が面白かったので、一部紹介します。
iPS細胞を再生医療だけでなく、がんの発症メカニズムの研究に応用しようというという内容です。
1.がんはなぜ発症する?
主に2つの要因によって発症する。
①遺伝子配列異常
…これは以前から言われていたこと。遺伝子に傷がついてしまうことでがんが発症するという概念。
②エピゲノム変化
…これについて今回は主に焦点をあてる。
2.エピゲノムとは?
DNAの塩基配列を変えることなく、遺伝子のはたらきを決めるしくみをエピジェネティクスとよび、その情報の集まりがエピゲノムです。
出典:日本医療研究開発機構・戦略的創造研究推進事業ホームページ
セミナーではもう少しわかりやすく説明されていました。
上の写真を見ると、もともとの文字列は同じでも、折りたたみ方によって出てくる文字が異なります。
この「折りたたみ方」が「エピゲノム情報」であり、「遺伝子の使い方」です。
(もともとの文字列が「DNA配列」に相当します。)
心臓の細胞も大腸の細胞もDNA配列は同じですが、エピゲノム情報が異なることによって別々の細胞になります。
3.iPS細胞とエピゲノム
体細胞からiPS細胞を樹立し、様々な培養に分化させるという方法は、エピゲノムを利用したものである。
iPS技術は、
=エピゲノムをリセットする方法(上記の写真の例で考えると折りたたみを解除し、もとの状態に戻す方法)
と言い換えることができる。
4.発がんとエピゲノム
iPS細胞樹立は段階的に起こる。
体細胞はiPS細胞となる過程で無限の細胞増殖活性を獲得する。
(「多分化能」と「自己複製能」を有することが「幹細胞」の特徴であり、幹細胞の1つであるiPS細胞ももちろん「自己複製能」を持つ。)
これは、体細胞がやはり無限の細胞増殖活性を獲得し、癌細胞となる過程と似ている。
エピゲノムを利用して発がんのメカニズムが解明できるかも??
5.iPS細胞用いた発がんの実験
実際に紹介された論文はこちら↓
日本語解説ページはこちら↓
概要を説明しますと、以下の通りです。
- マウスがドキシサイクリン入りの水を飲んだときだけ、マウス体内でOSKM(細胞の初期化を誘導する遺伝子=iPS細胞を誘導する遺伝子)が働くようなシステムを作る。
→ドキシサイクリンを飲むと生きたマウス内でiPS細胞が作られる! - 実際にマウスに一時的にドキシサイクリンを飲ませてみた。
(2週間の投与でiPS細胞化することが分かったので1週間のみ投与を行った=細胞の不十分な初期化を誘導した)
…多くのマウスで腫瘍ができ、死んでしまった。 - 特に腎臓に生じた腫瘍を分析してみると、Wilms腫瘍と構造がよく似ていた。
先に述べたとおり、発がんの原因は、①遺伝子配列異常 と ②エピゲノム変化 で起こるとされてはいたものの、主に①が原因であり、②の要因はそれほど大きくないと考えられていました。
しかし上記のドキシサイクリンの実験によって、遺伝子は変わらないのに発がんが起きることが示された。
→つまりエピゲノムを正常化することができれば、がんの治療にも役立つかもしれない。
以上です。個人的には興味深いテーマなので、今後も注目していきたいと思いました。