こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

iPS細胞とがん

先日聞いたセミナーの内容が面白かったので、一部紹介します。

 

iPS細胞を再生医療だけでなく、がんの発症メカニズムの研究に応用しようというという内容です。

 

 

1.がんはなぜ発症する?

主に2つの要因によって発症する。

 

①遺伝子配列異常

…これは以前から言われていたこと。遺伝子に傷がついてしまうことでがんが発症するという概念。


②エピゲノム変化

…これについて今回は主に焦点をあてる。

 

2.エピゲノムとは?

 DNAの塩基配列を変えることなく、遺伝子のはたらきを決めるしくみをエピジェネティクスとよび、その情報の集まりがエピゲノムです。

出典:日本医療研究開発機構・戦略的創造研究推進事業ホームページ

 

 セミナーではもう少しわかりやすく説明されていました。

 

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上の写真を見ると、もともとの文字列は同じでも、折りたたみ方によって出てくる文字が異なります。

 

この「折りたたみ方」「エピゲノム情報」であり、「遺伝子の使い方」です。

(もともとの文字列が「DNA配列」に相当します。)

 

心臓の細胞も大腸の細胞もDNA配列は同じですが、エピゲノム情報が異なることによって別々の細胞になります。

 

3.iPS細胞とエピゲノム

体細胞からiPS細胞を樹立し、様々な培養に分化させるという方法は、エピゲノムを利用したものである。

 

iPS技術は、


=エピゲノムをリセットする方法(上記の写真の例で考えると折りたたみを解除し、もとの状態に戻す方法)

 

と言い換えることができる。

 

4.発がんとエピゲノム

iPS細胞樹立は段階的に起こる。

 

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出典:京都大学 iPS細胞研究所 CiRA ホームページ

 

体細胞はiPS細胞となる過程で無限の細胞増殖活性を獲得する。

(「多分化能」「自己複製能」を有することが「幹細胞」の特徴であり、幹細胞の1つであるiPS細胞ももちろん「自己複製能」を持つ。)

 

これは、体細胞がやはり無限の細胞増殖活性を獲得し、癌細胞となる過程と似ている。

 

エピゲノムを利用して発がんのメカニズムが解明できるかも??

 

5.iPS細胞用いた発がんの実験

 

実際に紹介された論文はこちら↓

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

日本語解説ページはこちら↓

www.natureasia.com

 

概要を説明しますと、以下の通りです。

 

  • マウスがドキシサイクリン入りの水を飲んだときだけ、マウス体内でOSKM(細胞の初期化を誘導する遺伝子=iPS細胞を誘導する遺伝子)が働くようなシステムを作る。
    ドキシサイクリンを飲むと生きたマウス内でiPS細胞が作られる!
  • 実際にマウスに一時的にドキシサイクリンを飲ませてみた。
    (2週間の投与でiPS細胞化することが分かったので1週間のみ投与を行った=細胞の不十分な初期化を誘導した)
    …多くのマウスで腫瘍ができ、死んでしまった。
  • 特に腎臓に生じた腫瘍を分析してみると、Wilms腫瘍と構造がよく似ていた。

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遺伝子の変異によらないがん化の仕組みを解明 ~iPS細胞技術の応用~ https://www.jst.go.jp/pr/announce/20140214-2/index.html

先に述べたとおり、発がんの原因は、①遺伝子配列異常 と ②エピゲノム変化 で起こるとされてはいたものの、主に①が原因であり、②の要因はそれほど大きくないと考えられていました。

 

しかし上記のドキシサイクリンの実験によって、遺伝子は変わらないのに発がんが起きることが示された。

 

→つまりエピゲノムを正常化することができれば、がんの治療にも役立つかもしれない。

 

以上です。個人的には興味深いテーマなので、今後も注目していきたいと思いました。