こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

細胞表面インスリン受容体は、インスリンと結合すると膜内に移動しインスリン調整を媒介している【文献紹介】

本日も文献紹介です。これも以前に抄読会で取り上げられたものです。

  

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Insulin Receptor Associates with Promoters Genome-wide and Regulates Gene Expression

Melissa L.Hancock et al.

Cell Volume 177, Issue 3, 18 April 2019, Pages 722-736.e22

 

【背景】

インスリンは細胞表面のインスリンレセプター(IR)(チロシンキナーゼレセプター)に結合。

インスリン耐性→糖尿病、肥満、メタボリックシンドロームなどにつながる。

神経変性疾患との相関も報告あり、またインスリン過剰は癌とも関連。

・主要な経路として、phosphoinositide-3-kinase (PI3K)-AKT pathwayがある。→これは主にacute regulationで、グリコーゲン号瀬谷タンパク質翻訳を制御。

・AKTは長期コントロールも担うも、インスリン活性と抵抗性の長期的側面は未だ十分には解明されていない。

・IRは細胞表面受容体だが、核内にも存在していることは40年前からわかっていた。→これがインスリンの長期的機能に関与しているかも?と筆者らは考えた。

・以前よりウイルス遺伝子転写に必要なタンパク質として核内に遍在することが分かっていたHost cell factor-1 (HCF-1)が、IRのプロモーターへの結合とインスリン調整の媒介を行っていることが分かった。

 

【IRはクロマチン上のRNAポリメラーゼⅡと結合】

※核内にIRがあることは70年代から示唆されており、α鎖とβ鎖に分かれて存在するとされていた。

・IRβとPolⅡ複合体を共免疫沈降法で検出→HepG2細胞内で検出された。

・マウス肝臓で膜内や核膜、クロマチンにもIRβの存在が確認できた。PolⅡは核内で主に高発現。電顕観察でも核内IRβとαの存在確認。

・共免疫沈降法にてIRのα鎖・β鎖ともにPolⅡと結合して核内に存在していることを確認。

・ヒト肝臓の核内にもIRβの存在を確認。

 

【ゲノムワイド解析で遺伝子プロモーターにおいてIRが豊富であることが明らかに】

・IRβとPolⅡ S5Pのheatmap(ChiP-seq)→いずれも transcription start site (TSS) にピーク有。またGenomic annotationではpromoerにピーク有。

 

【IR標的遺伝子はインスリン関連機能が豊富】

・IRβが結合したプロモーターの役割→脂質代謝や免疫、転写に関与している。

・インフルエンザライフサイクルや、癌、糖尿病にも関与。

 

インスリン抵抗性におけるIRクロマチン結合と調整不全】

・マウスにグルコールを静注→肝臓においてIR結合クロマチン発現が上昇

・人工的にインスリン注射を行っても同様に肝臓でIR結合クロマチン発現が上昇

・同じ実験を糖尿病モデルマウスである肥満マウスでも行ったが、グルコース用としても核内のIRβ発言は増えず→肥満マウスではIRβの核内移行が起きにくい?

・マウスと同様にHepG2細胞でもインスリン投与で核内IRβ発現増加が見られた。またインスリン投与でPolⅡ S5P associationもアップ。

・また、HepG2細胞の細胞膜をビオチン染色し、インスリンを投与する実験を施行→IRβは膜由来であることが示唆された。

 

【IRのプロモーター結合は細胞特異的】

・ヒト神経細胞株である神経芽細胞腫SH-SY5YでもChIP-seq実施

 →IRβ、PolⅡ S5PにおいてもTSSピーク有。

・IR結合遺伝子サブセットは各細胞によって特異的なものであった。→IRβ結合遺伝子がピークを示すプロモーターの種類は、細胞ごとに異なる。

(figure 5Eでは、HepG2細胞の場合はFASN, APOB、SH-SY5Y細胞ではSCYL3, VTl1Bの発現↑)

 

【IRとHCF-1の物理的・機能的相互作用】

・IRとHCF-1の相互作用が共免疫沈降法で確認された。

・プロモーターにおけるIRβとHCF-1分布はほぼ同一。ChIP-seqでも個々のプロモーターでIR and HCF-1のオーバーラップが見られた。

・HCF-1ノックダウンすると各転写因子が大きく低下(IRがプロもたーに結合できない)

・IRをノックダウンしてもHCF-1のプロモーターへの結合は影響を受けない。

 

【HCF-1依存壊死シグナル伝達を介したインスリン効果】

・これまでの実験から、HCF-1がないと、(標準的なPI3K-AKT経路はブロックすることなく)プロモーターへのIR結合がブロックされることが分かった。

・IRまたはHCF-1ノックダウンによってインスリンupregulated遺伝子発現がブロックされる(どちらも効果は同等)。

・これは主に脂質代謝経路に関与。

・IRまたはHCF-1ノックダウンによって、いずれもインスリン誘発性細胞増殖が損なわれる。

・HCF-1ノックダウンにより肝臓のトリグリセリドと遊離脂肪酸が減少した。IR欠損でも同様の効果であった。

 

【Discussion】

・IRが細胞表面から核内に移動し、プロモーターと結合し、遺伝子発現を調節する経路があることを今回発見した。

インスリンで細胞を処理するとIR, HCF-1, PolⅡを含むプロモータの一連の複合体形成が増加することが分かった。

クロマチンへのIR結合は非常に特異的。またこれはHCF-1によって媒介される。

インスリン関連生理機能において重要な役割を果たしているであろう。