今日は、抄読会で取り上げられたHippo経路(Hippo signaling pathway)というものについて勉強してみましたので紹介します。
- Hippo経路とは
- Hippo経路に関する文献流し読み
1.Hippo経路とは
★Hippo-YAP/TAZシグナル伝達経路とは?
細胞内シグナル伝達経路の1つで、ショウジョウバエで最初に発見され、後に人を含む哺乳類でも保存されていることがわかった。
細胞の増殖(数)を制御しており、気管のサイズ制御において中心的役割を担っている。
Hippo経路が…
ONのとき(=平常時steady state)
YAP1/TAZを負に制御→細胞増殖抑制
OFFのとき(=外傷、悪性腫瘍、化学療法)
YAP1/TAZを正に制御→細胞増殖促進
★Hippo経路と悪性腫瘍
マウス肝細胞でYAP1を過剰発現
→肝臓腫大、肝細胞がん発症
YAP1欠損マウス
→肝・胆管細胞減少、肝細胞がん発症抑制
その他、造血以外の多くの悪性腫瘍で腫瘍促進に働くとされている。(大腸がんは論争中とのこと。)
YAPは肝がんの患者の約60%,非小細胞性肺がんの患者の約60%,胃がんの患者の約30%,卵巣がんの患者の約15%,TAZは肝がんの患者の約50%で,高発現や核への局在,および,予後の不良が示されている。
出典:器官のサイズを制御するHippo-YAP/TAZシグナル伝達経路
参考URL:
日本生化学会関東支部 https://www.biochem-kanto.jp/kotoba/pdf/jbs8605w.pdf
器官のサイズを制御するHippo-YAP/TAZシグナル伝達経路 : ライフサイエンス 領域融合レビュー
Hippo 経路とその破綻疾患 https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/52/10/52_940/_pdf
2.Hippo経路に関する文献流し読み
以下の文献を簡単に読んでみました。
YAP and TAZ are dispensable for physiological and malignant haematopoiesis
Elisa Donato et al.
Leukemiavolume 32, pages2037–2040 (2018)
・YAP/TAZは造血システムの制御にも関与していると思われる。
(YAP/TAZのパートナーであるTEAD1は初期B細胞分化を制御、TAZはナイーブT細胞分化に関与しているなど)
・固形腫瘍においてYAP/TAZは重要な発癌因子であることが分かっている。
→造血器腫瘍では?…時と場合による(appears to be context dependent.)。
・多発性骨髄腫や白血病では、YAPはAbl1依存性の腫瘍抑制機能を発揮→細胞をアポトーシスへ誘導。
多発性骨髄腫や白血病ではYAP/TAZの欠損がしばしばみられる。
・成人造血におけるYAPとTAZの役割は?
→これを調べるため、YAP/TAZノックアウトマウスを作製。
(今回はコンディショナルノックアウトマウス(floxマウス)を実験に使用)
WBC…経時的な差は認められず
RBC…delete後6がヶ月以降でRBC, Hbの有意な低下あり
初期造血前駆細胞(Lin-, LSK), HSCはいずれも有意差なし
・オスYapΔ/Δ/TazΔ/Δで死亡率悪い→原因調査中だが、肝臓におけるMx1-CRE活性化が原因として可能性高い。
・造血能を調べるために放射線照射後に骨髄移植を実施した。
→YapΔ/Δ/TazΔ/Δマウスor Yapflox/flox/Tazflox/floxコントロールマウスの細胞とwild-type BMCs (CD45.1+)の細胞を混合し、C57/Bl6 CD45.1マウスへ移植
→造血能力変わらず(2次移植でも変わらず)
→YAP/TAZは造血に不可欠
・AML発症との関連を調べるため、AMLモデルマウスを用い実験。
→YAP/TAZはALL-AF9誘導白血病の細胞形質転換・播種に必要な因子ではなく、またN-RASG12D or MLL-AF9-誘導性のAMLにおいてYAP/TAZは腫瘍抑制因子ではない。
→YAP/TAZのゲートキーパー機能は特定の状況でのみ発揮される?
→さらなる研究を要する。
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今回は以上です。