こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

Hippo経路(Hippo signaling pathway)

今日は、抄読会で取り上げられたHippo経路(Hippo signaling pathway)というものについて勉強してみましたので紹介します。

 

  1. Hippo経路とは
  2. Hippo経路に関する文献流し読み

 

1.Hippo経路とは

★Hippo-YAP/TAZシグナル伝達経路とは?

 細胞内シグナル伝達経路の1つで、ショウジョウバエで最初に発見され、後に人を含む哺乳類でも保存されていることがわかった。

 細胞の増殖(数)を制御しており、気管のサイズ制御において中心的役割を担っている。

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出典:Hippo 経路とその破綻疾患(西尾美希 著 2016)



Hippo経路が…

 ONのとき(=平常時steady state)

  YAP1/TAZを負に制御細胞増殖抑制

 OFFのとき(=外傷、悪性腫瘍、化学療法) 

  YAP1/TAZを正に制御→細胞増殖促進

 

★Hippo経路と悪性腫瘍

マウス肝細胞でYAP1を過剰発現

 →肝臓腫大、肝細胞がん発症

YAP1欠損マウス

 →肝・胆管細胞減少、肝細胞がん発症抑制

 

その他、造血以外の多くの悪性腫瘍で腫瘍促進に働くとされている。(大腸がんは論争中とのこと。)

 

YAPは肝がんの患者の約60%,非小細胞性肺がんの患者の約60%,胃がんの患者の約30%,卵巣がんの患者の約15%,TAZは肝がんの患者の約50%で,高発現や核への局在,および,予後の不良が示されている。

 

出典:器官のサイズを制御するHippo-YAP/TAZシグナル伝達経路

 

 

参考URL:

日本生化学会関東支部 https://www.biochem-kanto.jp/kotoba/pdf/jbs8605w.pdf

器官のサイズを制御するHippo-YAP/TAZシグナル伝達経路 : ライフサイエンス 領域融合レビュー

Hippo 経路とその破綻疾患 https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/52/10/52_940/_pdf

 

 

2.Hippo経路に関する文献流し読み

 

以下の文献を簡単に読んでみました。

 

YAP and TAZ are dispensable for physiological and malignant haematopoiesis
Elisa Donato et al.

Leukemiavolume 32, pages2037–2040 (2018)

 

・YAP/TAZは造血システムの制御にも関与していると思われる。

(YAP/TAZのパートナーであるTEAD1は初期B細胞分化を制御、TAZはナイーブT細胞分化に関与しているなど)

 

・固形腫瘍においてYAP/TAZは重要な発癌因子であることが分かっている。

造血器腫瘍では?…時と場合による(appears to be context dependent.)。

 

・多発性骨髄腫や白血病では、YAPはAbl1依存性の腫瘍抑制機能を発揮→細胞をアポトーシスへ誘導。

多発性骨髄腫や白血病ではYAP/TAZの欠損がしばしばみられる。

 

・成人造血におけるYAPとTAZの役割は?

→これを調べるため、YAP/TAZノックアウトマウスを作製。

(今回はコンディショナルノックアウトマウス(floxマウス)を実験に使用)

 WBC…経時的な差は認められず

 RBC…delete後6がヶ月以降でRBC, Hbの有意な低下あり

 初期造血前駆細胞(Lin-, LSK), HSCはいずれも有意差なし

 

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・オスYapΔ/Δ/TazΔ/Δで死亡率悪い→原因調査中だが、肝臓におけるMx1-CRE活性化が原因として可能性高い。

 

・造血能を調べるために放射線照射後に骨髄移植を実施した。

→YapΔ/Δ/TazΔ/Δマウスor Yapflox/flox/Tazflox/floxコントロールマウスの細胞とwild-type BMCs (CD45.1+)の細胞を混合し、C57/Bl6 CD45.1マウスへ移植

→造血能力変わらず(2次移植でも変わらず)

→YAP/TAZは造血に不可欠

 

・AML発症との関連を調べるため、AMLモデルマウスを用い実験。

→YAP/TAZはALL-AF9誘導白血病の細胞形質転換・播種に必要な因子ではなく、またN-RASG12D or MLL-AF9-誘導性のAMLにおいてYAP/TAZは腫瘍抑制因子ではない。

→YAP/TAZのゲートキーパー機能は特定の状況でのみ発揮される?

→さらなる研究を要する。

 

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今回は以上です。