こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

造血幹細胞と性別の関係

学位審査のときに造血幹細胞(HSC)と性別の関係に関する質問があったので改めて調べてみました。

 

結論から言うとHSCの分裂速度は性ホルモンの影響を受ける、エストロゲンによって細胞周期が回るようになるようです。

 

調べた中で、HSCの性差について詳細に報告されたのはNakada et al.(2014)が最初のようです。この内容を主に今回は紹介します。

 

Nakada D, Oguro H, Levi BP, Ryan N, Kitano A, Saitoh Y, Takeichi M, Wendt GR, Morrison SJ (2014) 

Oestrogen increases haematopoietic stem cell self-renewal in females and during pregnancy. 

Nature 505: 555–558.

 

上記文献の内容を一部抜粋。

  • 幹細胞の中には性ホルモンの影響を受けるものも存在する。
  • HSCの最終文化形態は性ホルモンの制御を受けるとされてきたが、HSC機能は性別によらずに通っていると考えられてきた。
    "haematopoietic stem cell (HSC) function is thought to be similar in both sexes."
  • しかし今回我々は、HSC細胞周期がエストロゲンによって制御されることを示す。
    "Here we show that mouse HSCs exhibit sex differences in cell cycle regulation by estrogen."
  • メスでは、細胞周期がより頻回に回り、分裂頻度が高い。この違いは精巣ではなく卵巣に依存していた。
  • エストロゲン濃度が上昇する妊娠中には、HSCの分裂回数、HSC頻度などの増加が観察され、HSCはestrogen receptor α (ERα)を高発現していることも分かった。
  • ERαの条件付きノックアウトにHSC分裂がメスにおいてのみ減少した。
  • Estrogen/ERαシグナル伝達経路が妊娠中における、HSC自己複製、脾臓中のHSC拡大、赤血球造血を促進することを示唆している。

以下は本文より抜粋

8-10週齢の雌雄では、HSC frequencyに性差なし。(Figure 1a ↓)

しかし細胞周期は優位にメスで頻度多い。(Figure 1d ↓)

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HSC細胞周期は去勢しても変わらないが、卵巣摘出すると大きく減少。(Figure 2a ↓)

写真やイラストなどを保持する外部ファイル。オブジェクト名はnihms-545789-f0002.jpgです。

妊娠中マウスでは、細胞周期がまわり、HSC frequencyが増加する↓

写真やイラストなどを保持する外部ファイル。オブジェクト名はnihms-545789-f0004.jpgです。

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その後の実験で彼らは、

  • エストラジオールがHSCと多能性前駆細胞(MPP)の循環を促進し、巨核球-赤血球前駆細胞(MEP)への分化を促進することを突き止めた。
  • 細胞周期はメスで多くまわっているにも関わらず、HSC friquencyに性差がないため、筆者らはエストラジオールがHSC自己複製を増強するといっても、HSC-HSCの対象分裂を増強するのではなく、非対称分裂を増強しているのではないかと示した。

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