こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

Myeloid-restricted progenitors with long-term repopulating activity (MyRPs)

今日からまた新たな文献紹介です。こちらも数回に分けてやっていきます。

Cell. 2013 Aug 29;154(5):1112-1126. 
Clonal Analysis Unveils Self-Renewing Lineage-Restricted Progenitors Generated Directly From Hematopoietic Stem Cells
Ryo Yamamoto, et al.

Abstract

造血幹細胞(HSC)が、その自己複製能を喪失した多能性幹細胞(MPP)にまず分化し、そこから各系統の血球に段階的に分化していくということはすでに周知の事実である。我々は、単一細胞移植を用いることによって、予期せずmyeloid-restricted progenitors with long-term repopulating activity (MyRPs)(=長期再増殖活性を有し骨髄球系細胞へ分化する血球)の存在を同定した。これは、巨核球、巨核赤芽球、骨髄系胸痛前駆細胞への分化が可能である。Paired daughter cell assays(ペア娘細胞解析)と移植を組み合わせることによって、HSCは対称分裂によってHSCを産生することも、また非対称分裂によって直接MyRPsへ分化することも可能であることが分かった。この骨髄球系バイパス系とは、アブレーションストレスへの迅速な応答に不可欠な役割を果たしている可能性がある。我々の実験結果は、自己複製能の喪失と段階的分化はHSCの運命決定に必ずしも必要ないことを示しており、骨髄分化の新たなモデルを提示している。

 

Introduction

 ・造血幹細胞(HSC)は生涯にわたって造血を維持しており、階層的分化が特徴的である。

・(階層的分化の1つのモデルとして)表現型CD150+CD34−/lowFlt3−c-Kit+Sca-1+lineage− (CD150+CD34−Flt3−KSL)で特徴づけられるHSCはまず最初に多能性前駆細胞MPP(Flt3CD34+KSL)に分化し、そこからリンパ球系多能性前駆細胞LMPP(Flt3+CD34+KSL)へと分化が進んでいく。

・MPPとLMPPはそこからさらに自己複製能が失われた(または限定された)8週間程度の短期再増殖能を有する多能性前駆細胞へと分化し、さらにここから骨髄球系共通前駆細胞CMPやリンパ球系共通前駆細胞CLPへと分化していくと考えられている。

→この現在の階層的モデルでは、分化・成熟が進むにつれて、自己複製能と多能性が失われてくと考えられている。

現在の「古典的」モデルにおいては、まずHSCからMPPになることが分化・成熟の最初の段階であるとされている。

・このコンセプトは広く受け入れられているにもかかわらず、その根拠は乏しく、近年では疑問を呈する文献も出てきている。

Ex. 好中球-単球やリンパ球系ポテンシャルを有しているも巨核赤芽球への分化ポテンシャルを有していないLMPPが見つかっている。→巨核赤芽球へ分化する別の経路があるのではないかということを示唆している。

・HSCや前駆細胞の分化能を評価するには単独細胞のポテンシャルを解析することが重要であり、また白血球のみなならず移植を利用した血球5系統全ての分化再増殖能を評価することが重要である。

・我々は近年、CD150highCD34−KSL細胞群に骨髄球系分化能を有するHSCが豊富であることや、これらの細胞は十分な自己複製能と骨髄球系再増殖能を有していることを示した。

→これがHSCから骨髄球系細胞へ分化する最初の段階かもしれない。

→これを検証するために、我々はT・B細胞と好中球のみならず赤芽球や血小板(つまり血球5系統全て)をクサビラオレンジKOで標識したトランスジェニックマウスを作製し、このクサビラオレンジマウスの骨髄細胞を単独で移植する実験を行った。

→この実験仮定の中で、表現型からHSCと定義される細胞集団の中に、と骨髄球系細胞・巨核赤芽球系細胞に限定した長期再増殖能と分化能を有した細胞があることを発見した。→多能性と自己複製能は独立である可能性を示唆。

→HSCはこの骨図球系細胞再増殖能を有した前駆細胞MyRPに直接分化するのかということを検証するために我々は、paired daughter cell (PDC) assay (1つの細胞から分裂した2つの娘細胞を解析する実験のこと)と単独細胞移植を組み合わせた実験を行った。

→その結果、HSCから非対処分裂によってMPPを介することなく、骨髄球系に限定した再増殖能を有する細胞に分化が可能であることを示唆していた。

 

参考画像

Primed and ready: understanding lineage commitment through single ...

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出典:Nimmo RA, May GE, Enver T. Primed and ready: understanding lineage commitment through single cell analysis. Trends Cell Biol. 2015;25(8):459-467.