こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】Apelin陽性細胞による造血コントロールと血管再生

抄読会で取り上げられた文献の紹介です。

 

※予備解説

骨髄内には動脈と静脈が張り巡らされているが、動脈・静脈の特徴を併せ持つ血管Type H、また新生児期に多く見られ、血管前駆細胞の役割を持っているされるType Eという種類の血管の存在を著者らは先行論文などで示している。

 

それぞれの定義は以下の通り。

Type H: CD31 high, Endomucin high

Type E: CD31 high, Endomucin highだがEndomcinの発現がType Hに比べて低い集団

Type L: CD31 low, Endomucin low ※上記2種の血管とともに筆者らが提唱している血管。Type LもCD31, Endomucinともに陽性であることに注意。

 

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文献内ではVEGFについても重要性が述べられておりましたが、分量が多くなってしまったため、ApelinにFocusすることとし、その部分は割愛しました。

 

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 2019 Dec 5;25(6):768-783.e6. doi: 10.1016/j.stem.2019.10.006. Epub 2019 Nov 21.

Apelin+ Endothelial Niche Cells Control Hematopoiesis and Mediate Vascular Regeneration after Myeloablative Injury.

 

Abstract

放射線療法や化学療法は、骨の脈管構造を破壊するが、骨髄移植後の血管再生を可能にする根本的原因と目かに図に無についてはあまりよくわかっていない。今回、我々は、放射線療法やその他の治療に対する造血細胞の損失それ自体が、血管拡張や浸透性や血管内皮細胞の造成のトリガーとなるということを示す。さらに骨髄細胞の0.003%を占めるApelin-expressing (Apln+)血管内皮細胞集団が、生理的恒常性維持と移植に誘発される骨髄再生において重要であると考える。Apln+血管内皮細胞や、Apln-CreERを介したKitlやVegfr2を除去すると、造血幹細胞HSCの維持が損なわれることを示すことでこれらの細胞の重要性を示したい。放射線症後、一貫しApln+血管内皮細胞は増加し、移植されたHSC、造血前駆細胞HSPCにより救急されるVEGF-Aに反応し、骨血管の正常化を促進している。まとめると、これらの所見は、HSPCが欠陥構造の維持において、またApln+血管内皮細胞が造血機能維持において重要な役割を果たしていることを示しており、同時により優れた骨髄移植を行うターゲットとなることを示唆している。

 

Result & Discussionまとめ

・マウスに9Gyの放射線を照射し7日後の長管骨の状態を確認
→CD31 + Emcn –細胞減少/CD31 + Emcn +細胞増加

(この変化は照射3時間後から起こり少なくとも3-4日程度持続)

・その他、血管内腔が大きくなる、血管内皮細胞領域が広くなるなどの変化が見られた。

 

・血管透過性の更新も確認された。

・上記の反応は脾臓への放射線症でもほぼ同様の傾向が見られた。(随外造血機能を持たない心臓や小腸などの臓器ではこの傾向は見られず)

放射線照射後の血管内皮細胞をsortingで選び取りRNAシークエンスを行ってみると…照射1日目、7日目ではアップレギュレート・ダウンレギュレートされている遺伝子に有意な違いがあり。

・血管ニッチ機能に関与する分子シグナル物質が放射線照射後に有意な変化あり(DNAダメージに関連する遺伝子の変化はなし)→放射線照射によってニッチ機能に関関する骨血管内皮細胞の転写プロファイルを変化させているのではないか。

放射線照射や化学療法で何が起こっている?造血細胞がなくなるのが関与しているのでは?

→この仮説を検証するためにジフテリアトキシンを投与でLSK細胞がノックアウトされるようなマウスを作製。

→ノックアウトすると…放射線照射と同様の傾向が見られた(Emcn+ CD31+ 細胞の増加、血管径拡張、血管内皮細胞増勢など)

→造血細胞(LSK細胞)によって骨脈管の生理機能が維持されている。造血細胞と血管内皮細胞間に相互作用がある可能性がある。

・Lin+細胞、Lin-細胞、LSK細胞をマウスに移植すると…Lin+細胞<Lin-細胞<LSK細胞の順に移植後の血管増勢を促進。

・【Apelin登場:Apelinは他の臓器で血管新生に重要と言われている】

Apln+細胞はEmcm+でもある。

・骨内皮細胞の12%ほどでApelin+

・Apln+細胞は、CD150 + CD48 – Lin – HSC細胞に近接した位置にあり、ニッチ機能を持っている可能性がある。

・Apln+細胞では、血管新生(特に血管内皮成長因子VEGFシグナル)に関連した経路が活性化されている。

・ではApln+細胞をジフテリア毒素によって除去してみると?…LSK細胞、HSCの割合・絶対数がともに減少。→移植を行うと生着率↓(様々な分画で)

 またIL-6などの炎症性サイトカインも上昇。

→Apln+血管内皮細胞が正常な造血や非炎症環境維持に重要。

 

まとめると…

・Apelin+血管内皮が造血幹細胞を指示。

・Apelin+血管内皮が血管増勢に重要。