再び文献紹介です。
少し前ですが、抄読会で取り上げられたものです。
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Stem Cell Reports
Volume 13, Issue 1, 9 July 2019, Pages 76-90
CCR5 Signaling Promotes Murine and Human Hematopoietic Regeneration following Ionizing Radiation
Author links open overlay panelSadhna O.Piryani et al.
【Highlights】
- 骨髄におけるCCL5とCCR5発現は放射線照射後に増加する。
- CCL5は放射線照射後の細胞周期加速や細胞生存を促進する。
- CCR5は造血能再構築に必要。
- CCL5は全身放射線後の骨髄抑制期間を短縮することができる。
【要約】
造血幹細胞(HSC)や造血前駆細胞(HSPC)は、骨髄微小環からの制限サイトカインに依存している。マウス骨髄培養上清の広汎なスクリーニングにより、我々は、血管内皮選択性の造血成長因子としてのC-C motif chemokine ligand 5 (CCL5)を同定した。以下に示すようなCCL5処理によって、放射線照射後も造血能再構築が加速され、さらに生存期間が長くすることができる。Ccr5欠損マウスにおいては、造血能再構築がコントロールマウスと比較し遅延が確認できた。また、造血細胞におけるCcr5欠損によって造血再構築能が遅延する一方で、間質/血管内皮細胞におけるCcr5欠損による遅延は見られなかった。機構的に、CCL5は、造血細胞周期と細胞生存を促進すると考えられる。マウス造血細胞と同じく、ヒト造血細胞(臍帯血、健常骨髄、末梢血)においても、放射線症後に細胞増殖促進のためにCCR5 発言が増加することが分かった。これらのデータは、CCL5とCCR5の伝達が、造血能再構築において重要な役割を果たしており、骨髄抑制の期間を短縮するための治療標的となり得ることを示している。
【背景】
・造血幹細胞は骨髄内の同血管に近接して存在。自己複製能・骨髄再構築能ともに血管内皮細胞からの外因子に依存している。
・内皮細胞由来成長因子… stem cell factor, notch ligands, pleiotrophin, epidermal growth factor (EGF) ほか多数。
・EGFは、84サイトカインアレイによって同定された。
(アポトーシス促進因子であるBakやBax欠損によって、マウス骨髄上清中のEGF値上昇が見られ、低EGFの同胞マウスと比較し、全身放射線照射後の生存期間炎症が確認できた。)
・同じアレイから、CCL5も同定された。放射線全身照射後にコントロールと比較して11倍のCCL5増加が見られた。→放射線症後の骨髄再構築能形成に関与している?
・Cxcl12のように、いくつかのケモカインはHSC維持・保持に必要。
(Cxcl12欠損によってHSCは枯渇してしまう) →CCL5の効果についてはまだ不明。
・CCL5は骨髄微小環境内で加齢とともに増加→Lineage bias(加齢に伴い骨髄系細胞への分化割合が増えていく)に関連していることが分かっている。
・CCL5は血管新生を促進する(細胞外への直接伝達か血管内皮成長因子の増加のいずれかの方法によって)
・CCL5とその受容体CCR5の欠損→マクロファージ遊走が阻害される。
・これまでもCCL5/CCR5と、teady stateでの造血や加齢との関連は研究されてきた→では放射線照射後(傷ついた骨髄の回復)における効果については?今回はこれを検証する。
【結果】
・健常C57BL/6 に放射線照射(800cGy)行うと、その後にCCL5濃度の増加が見られる(商社24時間後には約2倍になる)。
・放射線照後の有意なCcr5(mRNA)発現増加が、WBC, Lin-, KSLいずれでも見られたが、WBCよりLin-、Lin-よりKSLでよりCCR5高発現であった。(より未分化な細胞でCcr5発現が高い傾向が見られた)。
★CCL5はIn vivo HSPC再生促進、生存期間延長に寄与
・ドナーのKSL細胞に放射線照射を行わずに競合移植を行った場合(ドナーKSLを通常の培養液TSFで培養したKSL、TSFにCCL5を添加した培養液で培養したKSL、2つのドナーKSLを用意し、それぞれ移植を行った)、コントロールと比較し有意な結果得られず(長期の骨髄細胞増加見られず)。
※TSF=thrombopoietin, stem cell factor, Flt-3 ligand
・ドナーKSLに放射線照射(300cGy)2を行うと、CCL5入りの培養液で培養しているドナー細胞でのみ有意な細胞増殖が見られた。
・放射線照射後CCL5処理済みKSLをドナーマウス(放射線照射後)に移植しても、コントロールと生着の違いは見られず。→In vitroでのCCL5処理はHSC contentには変化与えないもlineage-comitted cellには変化与えるかも。
・【次にIn vivo実験】放射線照射後(準致死量である500cGy)のマウスにCCL5またはNSを皮下注→CCL5処理マウスでは骨髄性細胞やKSLの増加が見られた。
・さらにその細胞(致死量放射線照射後のマウスにCCL5またはNSを皮下注)を用いて競合移植(上図)→末梢血でも骨髄でもlong-term HSC contentには有意差なし。
・致死量放射線700cGy照射後に同じように移植行うも有意な結果得られず。
・致死量(700cGy)ほどではないが、骨髄抑制がおきる量(500cGy)の放射線照射のときに最もCCL5の効果が発揮される?(In vivoでのHSPC再構築を促進する)
・【CCL5には放射線照射後の生存期間延長に寄与している?】700cGy放射線照射後にマウスにCCL5または生食注射を続ける→有意にCCL5群の方が生存期間延長。
★CCR5は造血能再構築に必要
・CCL5はCCR1もCCR3も活性化する→CCR5欠損マウスではCCL5の効果はどうなるのか?(CCR1やCCR3の活性化によって同様の効果がもたらされるのか?)
・定常状態では、Ccr5-/-マウスもCcr5+/+マウスも全血球数、BM細胞数、KSL細胞数などに有意差なし。
・Ccr5-/-マウスとCcr5+/+マウスに300cGy放射線照射→Ccr5-/-で有意に全細胞数やCSFの減少あり。
・500cGy照射では…Ccr5-/-マウスで全細胞数、KSL細胞数などの有意な減少あり。
・次に、Ccr5-/-マウスまたはCcr5+/+マウスに500cGy照射後(Ccr5に放射線ダメージを与え、その後の回復効果を見るための放射線照射)、それをドナーとして900cGy照射後(レシピエントマウスの骨髄を破壊するための放射線照射)マウスに移植。(下図)
→Ccr5-/-マウスで有意に生着率が低い。
・Ccr5は造血再生(特に骨髄分画)に必要とされている?
・次に造血細胞でのみHSCが欠失しているキメラマウスを作製→放射線照射後の骨髄破壊がCcr5-/-マウスでより有意。
→造血細胞におけるCcr5欠損は放射線照射後の造血反応回復を遅らせる。
★CCL5の放射線照射後の細胞周期加速・細胞生存促進効果
・CCL5は特定の癌の細胞周期を加速させる→放射線照射後の細胞周期活性化にも役立つ?
・放射線症後のKSLをCCL5入りの培養液で培養するとTSF単独で培養するより有意にG2/S/M期の細胞が増加する。
・細胞周期を制限する因子としてcyclin-dependent kinases (Cdks) が挙げられる。
→KSL細胞のCdk2, Cdk4, Cdk6を測定→3つともCCL5入り培養液で培養したKSLの方が有意に高い。
・マウスに500cGy照射後にCCL5皮下注→Cdk2, Cdk4, Cdk6が増加。またG2/S/M期細胞が有意に多い。
→CCL5が放射線照射後のHSPC細胞周期活性化に関与している。
・またCCL5処理後はアネキシンV染色陽性細胞が有意に少ない(アポトーシス↓細胞はアネキシン染色陽性となる)。
・放射線照射による細胞死をCCL5は減らす。
★ヒトHSPCにおける放射線照射後CCR5誘導
・臍帯血に放射線照射→照射後有意にCCR5増加(特に100cGy照射の時に最も増加り高い)
・健常ヒトドナーの末梢血への放射線症後にも有意なCCL5増加あり。
・CCL5を含む培養液でCD34+MDを培養したとき、アポトーシス細胞減少あり。
→ヒトHSPCにおいてもCCL5は細胞増加、アポトーシス減少効果を発揮することが分かる。
【考察】
・放射線照射後にCCL5, CCR5がともに増加→CCR5シグナル伝達が放射線照射後造血応答に機能する可能性がある。
・CCL5は加齢骨髄に蓄積する炎症性サイトカイン…加齢に伴う骨髄系分化傾向に関与していいる(CCL5強制発現によってHSCのリンパ球系分化が減少)
・CCL5欠損・CCL5過剰発現のHSCを用いた競合移植実験では、生着に違いは見られず→CCR5のリガンドとしてはCCL3,4もあり、これが、CCL5がないときの補助をしているのかも?
・Ccr5欠損マウスに放射線照射すると、過剰発現マウスと比較しHSC再生が遅延する。
・この傾向はヒトの臍帯血、骨髄、末梢血でも確認できた。
・興味深いことにCCR5は低線量照射のときに最も増加する。→CCR5が放射線被ばくマーカーとしても使用できるかも?
・化学療法中や放射線照射後の骨髄抑制をCCL5の造血再生能を利用して改善できる可能性があるが、今後のさらなる研究が必要である。